・・・任じていないなどとは夢にも知らなかったので、同業者同社員たる余の言葉が、少しは君に慰藉を与えはしまいかという己惚があったんだが、文士たる事を恥ずという君の立場を考えて見ると、これは実際入らざる差し出た所為であったかも知れない。返事には端書が・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・御察し申しまするに、あなたはわたくしのいたした事を無責任極まる所為だと思召して、ひどくご立腹になっていらっしゃいますのでしょう。自分で顧みて見ましても、わたくしのいたした事は余り気の利いた所為だとは申されません。全く子供らしい振舞だったと申・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・「そうですね、新聞に出ていましたが、オキナワレットウにハッセイしたテイキアツは次第にホクホクセイのほうへシンコウ……。」「エヘン、エヘン。」クねずみはまたいやなせきばらいをやりましたので、タねずみはこんどというこんどはすっかりびっく・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・とこぼし、更に「おまけに、お前が気が弱くなったのは、体が弱ってきたセイってよりも、むしろ恐慌のセイらしいぞ」と弱気な、非闘争的なダラ幹魔術にかかっているような述懐をもらしたかと思うと、忽然として次の行では作者はそのチャーリーに「収入が減った・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 作者は姉の家に手伝っている間にも、「いろいろ焦り、自分の書けないことが、まるで姉たちの所為でもあるかのように毎日当りちらし、ヒステリーのように泣いてばかりいるのだった。」 そのような自分の焦燥の姿をも認めながら、それをひっくるめて・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・切れならずや、それに大金を棄てんこと存じも寄らず、主君御自身にてせり合われ候わば、臣下として諫め止め申すべき儀なり、たとい主君がしいて本木を手に入れたく思召されんとも、それを遂げさせ申す事、阿諛便佞の所為なるべしと申候。当時三十一歳の某、こ・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・の切れならずや、それに大金を棄てんこと存じも寄らず、主君御自身にてせり合われ候わば、臣下として諫め止め申すべき儀なり、たとい主君がしいて本木を手に入れたく思召されんとも、それを遂げさせ申す事阿諛便佞の所為なるべしと申候。当時未だ三十歳に相成・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・続いて、上を偽る横着物の所為ではないかと思議した。それから一応の処置を考えた。太郎兵衛は明日の夕方までさらすことになっている。刑を執行するまでには、まだ時がある。それまでに願書を受理しようとも、すまいとも、同役に相談し、上役に伺うこともでき・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫