・・・同上 芸術 画力は三百年、書力は五百年、文章の力は千古無窮とは王世貞の言う所である。しかし敦煌の発掘品等に徴すれば、書画は五百年を閲した後にも依然として力を保っているらしい。のみならず文章も千古無窮に力を保つかどうかは疑・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・劫初以来人の足跡つかぬ白雲落日の山、千古斧入らぬ蓊鬱の大森林、広漠としてロシアの田園を偲ばしむる大原野、魚族群って白く泡立つ無限の海、ああこの大陸的な未開の天地は、いかに雄心勃々たる天下の自由児を動かしたであろう。彼らは皆その住み慣れた祖先・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・と、じいさんは、かすかはるかに、千古の雪をいただく、鋭い牙のような山に向かって手を合わせました。 それから、治助じいさんが、自分の小舎にもどって、まだ間がなかったのでした。どこからか、風におくられて手風琴の音がきこえてきたのでした。・・・ 小川未明 「手風琴」
・・・ つぎに人性の千古の悩みである利己か、利他かの問題がある。利己主義には深い根拠があり合理的に、正直に思索するときには誰しも一応は利己主義に帰著するくらいのものである。むしろここから反転して利他主義に飛躍するのが道筋ともいえる。リップスの・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・かきむしられ何の小春が、必ずと畳みかけてぬしからそもじへ口移しの酒が媒妁それなりけりの寝乱れ髪を口さがないが習いの土地なれば小春はお染の母を学んで風呂のあがり場から早くも聞き伝えた緊急動議あなたはやと千古不変万世不朽の胸づくし鐘にござる数々・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・そうして、訳文の末に訳者としての解説を附して在りますが、曰く、「地震の一篇は尺幅の間に無限の煙波を収めたる千古の傑作なり。」 けれども、私は、いま、他に語りたいものを持っているのです。この第十六巻一冊でも、以上のような、さまざまの傑作あ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・漢水は依然として西南に流れるのが千古の法則だ。「だんだん聞き糺して見ると、その妻と云うのが夫の出征前に誓ったのだそうだ」「何を?」「もし万一御留守中に病気で死ぬような事がありましてもただは死にませんて」「へえ」「必ず魂魄・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・この一つの古い謎は、千古にわたってだれも解けない。錯覚された宇宙は、狐に化かされた人が見るのか。理智の常識する目が見るのか。そもそも形而上の実在世界は、景色の裏側にあるのか表にあるのか。だれもまた、おそらくこの謎を解答できない。だがしかし、・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ただ杜甫の経歴の変化多く波瀾多きに反して、曙覧の事蹟ははなはだ平和にはなはだ狭隘に、時は逢いがたき維新の前後にありながら、幾多の人事的好題目をその詩嚢中に収め得ざりしこと実に千古の遺憾なりとす。〔『日本』明治三十二年三月二十六日〕『・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
出典:青空文庫