・・・一 既に優美を貴ぶと言えば、遊芸は自から女子社会の専有にして、音楽は勿論、茶の湯、挿花、歌、誹諧、書画等の稽古は、家計の許す限り等閑にす可らず。但し今の世間に女学と言えば、専ら古き和文を学び三十一文字の歌を詠じて能事終るとする者なきに非・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・けだし天は俳諧の名誉を芭蕉の専有に帰せしめずしてさらに他の偉人を待ちしにやあらん。去来、丈草もその人にあらざりき。其角、嵐雪もその人にあらざりき。五色墨の徒もとよりこれを知らず。新虚栗の時何者をか攫まんとして得るところあらず。芭蕉死後百年に・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ これまで文化は、生活にゆとりのある階層の占有にまかされて来た。侵略戦争がはじめられて、それまでの平和と自由をのぞむ文化の本質が邪魔になりはじめたとき、谷川徹三氏の有名な文化平衡論が出た。日本に、少数の人の占有する高い文化があり、一方に・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・「このような精力と熱情をもち、戦友に対してこれほどの献身をもつ婦人が、四十年近い間に運動のために尽した業績――このことは何びとも語らず、この事は同時代の新聞にも記録されていない。しかし私は知っている。コンミューン亡命者の婦人達がしば・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・の軍隊生活という特別な、常識はずれな生活の立体的な空気、感情の明暗、それに抵抗している主人公三吉の実感が濃くうき上って来ない。戦友としての人間らしいやさしさ、同時に行われる盗みっこ、要領、残酷、猥褻、目的のない侮蔑。「軍服」の中でそういう軍・・・ 宮本百合子 「小説と現実」
・・・必要だから皆が使う権利をもっている、そしてそれを自分だけで専有することは間違っていると云う心持が養成されている。クラブにしろ、種々な研究会に於てにしろ、凡てその主義で行われているから、自分で買込んだり貯め込んだりする興味が減って来る。益々社・・・ 宮本百合子 「露西亜の実生活」
・・・そう云う少女達は、お菓子を御土産にいただいても、決して自分の専有にするなどということはありません。皆なに等分に分けて上げます。それも誰も、そうせよと教えるのではないのですが、自分独りが楽しむものではないと思っているからです。 その例は家・・・ 宮本百合子 「わたくしの大好きなアメリカの少女」
・・・有名な、占有は盗みだという語なんぞも、プルウドンが生れるより二十年も前に、Brissot が云っている。プルウドンという人は先ず弁論家というべきだろう。それからバクニンは、莫斯科と彼得堡との中間にある Prjamuchino で、貴家の家に・・・ 森鴎外 「食堂」
出典:青空文庫