・・・ 八月七日の時事新聞に「渡米選手晴れの壮行会」の写真が出ていた。ひとめ見て、何となしはっとした。村山主将が立ってマイクの前であいさつしている。左側に古橋、橋爪その他の選手たちが並んでかけているのだが、その五人はいっせいに頭を下げ視線をお・・・ 宮本百合子 「ボン・ボヤージ!」
・・・ 松崎はちらちらジェルテルスキーがタイプライターで打ちかけている草稿を覗いたり、積みかさねてある新着の露字新聞を引き出して目を通したりしていたが、「ああ、近頃何でもルイコフ君の細君が貴方のところへ行っているそうじゃありませんか」・・・ 宮本百合子 「街」
・・・その恰幅と潮風に鍛えられた喉にふさわしい低い幅のある荘重な音声で草稿にしたがって読まれる演説は、森として場内の隅々まで響いた。どことなしお国の訛が入る。 つづいて桜内蔵相。内容はともかくとしてやはり声はよく耳に入った。畑陸相が登壇すると・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・三 ナポレオンはジェーエーブローの条約を締結してオーストリアから凱旋すると、彼の糟糠の妻ジョセフィヌを離婚した。そうして、彼はフランスの皇帝の権威を完全に確立せんがため新しき皇妃、十八歳のマリア・ルイザを彼の敵国オーストリア・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫