・・・そこでみんな、ぞろぞろ、休所を出て、入口の両側にある受付へ分れ分れに、行くことになった。松浦君、江口君、岡君が、こっちの受付をやってくれる。向こうは、和辻さん、赤木君、久米という顔ぶれである。そのほか、朝日新聞社の人が、一人ずつ両方へ手伝い・・・ 芥川竜之介 「葬儀記」
・・・ただ、夫の同僚を先に、一同がぞろぞろ薄暗い改札口を出ようとすると、誰かあいつの後から、「旦那様は右の腕に、御怪我をなすっていらっしゃるそうです。御手紙が来ないのはそのためですよ。」と、声をかけるものがあった。千枝子は咄嗟にふり返って見たが、・・・ 芥川竜之介 「妙な話」
・・・男は入口にうずくまるフランシスに眼をつけると、きっとクララの方に鋭い眸を向けたが、フランシスの襟元を掴んで引きおこした。ぞろぞろと華やかな着物だけが宙につるし上って、肝腎のフランシスは溶けたのか消えたのか、影も形もなくなっていた。クララは恐・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・しょんぼりと泣きも得せずに突っ立ったそのまわりには、あらん限りの子供たちがぞろぞろと跟いて来て、皮肉な眼つきでその子供を鞭ちながら、その挙動の一つ一つを意地悪げに見やっていた。六つの子供にとって、これだけの過失は想像もできない大きなものであ・・・ 有島武郎 「卑怯者」
・・・ その癖、妙な事は、いま頃の日の暮方は、その名所の山へ、絡繹として、花見、遊山に出掛けるのが、この前通りの、優しい大川の小橋を渡って、ぞろぞろと帰って来る、男は膚脱ぎになって、手をぐたりとのめり、女が媚かしい友染の褄端折で、啣楊枝をした・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・山路はぞろぞろと皆、お祭礼の茸だね。坊主様も尼様も交ってよ、尼は大勢、びしょびしょびしょびしょと湿った所を、坊主様は、すたすたすたすた乾いた土を行く。湿地茸、木茸、針茸、革茸、羊肚茸、白茸、やあ、一杯だ一杯だ。」 と筵の上を膝で刻んで、・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・この町の小供等は、二人の西洋人の後方についてぞろぞろと歩いていた。斯様に、子供等がうるさくついたら、西洋人も散歩にならぬだろうと思われた。山国の渋温泉には、西洋人はよく来るであろう。けれど其れは盛夏の頃である。こう、日々にさびれて、涼しくな・・・ 小川未明 「渋温泉の秋」
・・・ もし、はやらなければ、宿賃の払いも心細い……と、口には出さなかったが、ぎろりとした眼を見張ってから一刻、ひょいと会場の窓から村道の方を覗くと、三々伍々ぞろぞろ歩いて来る連中の姿が眼にはいり、あ、宣伝が利いたらしいとむしろ狼狽した。・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ちょうど一競走終ったところらしく、スタンドからぞろぞろと引き揚げて来る群衆の顔を、この中に一代の男がいるはずだとカッと睨みつけていると、やあ済まん済まんと作家が寄って来て、君を探していたんだよ。どうやら朝からスリ続けて、寺田が持って来る原稿・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・その臭の主も全くもう溶けて了って、ポタリポタリと落来る無数の蛆は其処らあたりにうようよぞろぞろ。是に食尽されて其主が全く骨と服ばかりに成れば、其次は此方の番。おれも同じく此姿になるのだ。 その日は暮れる、夜が明ける、何も変った事がなくて・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
出典:青空文庫