・・・大概の菓物はくだものに違いないが、栗、椎の実、胡桃、団栗などいうものは、くだものとはいえないだろう。さらばこれらのものを総称して何というかといえば、木の実というのである。木の実といえば栗、椎の実も普通のくだものも共に包含せられておる理窟であ・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・ 校長さんが得意そうにまるで見当違いの上の方を見ながら答えました。「へい。実は本年は不思議に実業志望が多ございまして、十三人の卒業生中、十二人まで郷里に帰って勤労に従事いたして居ります。ただ一人だけ大谷地大学校の入学試験を受けまして・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・それが破綻であるか、或いは互いに一層深まり落付き信じ合った愛の団欒か、互いの性格と運とによりましょが、いずれにせよ、行きつくところまで行きついてそこに新たな境地を開かせる本質が恋愛につきものなのです。 自然は、人間の恋愛を唯だ男性と・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・に着ぶくれた胴の上に青い小さな顔が乗って居る此の変な様子で人の集まる処へ出掛ける気もしない。「なり」振りにかまわないとは云うもののやっぱり「女」に違いないとつくづく思われる。 こないだっから仕掛けて居たものが「つまずい」て仕舞ったの・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・云ってみれば、お互いがお互いから切りはなして考えたことは、それが健全なよりよい方向であってさえも、結婚生活の現実の中に実を結んでゆく善き花となって咲き出さない場合さえ多いのである。 しかも、一人の若い男、一人の若い女という単純そうな姿の・・・ 宮本百合子 「家庭創造の情熱」
・・・ 民主戦線ではその広さと、そこに包括される社会活動の部面が多様であるにかかわらず、他の一面ではこれまで社会各層がもたなかった互いの共通語をもつようになってきている。労働者階級のファシズム反対という声と、学者たちが学問の自由のために叫ぶフ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・仲間としての友愛、友達としての友情、同志としての結合、そういう社会的な結び合いの中にある純潔さは、男と女の自然な特殊性を十分に主張しながらも、それを貫いてもう一つ互いの間に持たれている共通な目的によって結ばれている。具体的な例でいえば、ここ・・・ 宮本百合子 「社会生活の純潔性」
・・・買いだめ出来ないということから益々お互いに気はずかしいような手段がとられて行ったのであると思える。 商人の公正な商売道徳が新しく立てられなければならないことが云われて、それはそのとおりなのだけれど、それだけ一方的に、モラルの面から強調さ・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
・・・ 女と男とがお互いに交渉を持ってましなものにして行こうとするものとして、経済問題が出て来る。女の人の負うべき努力の部分というのは、その中で多くの部分が予定されているのです。今日の実際の恋愛という風なものは、そう云うものだと思う。その点を・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
・・・家族関係というふうのものも近代の意味では確立していなかったから、互いにとって親族的な縦横の関係は無視されていた。いいかえれば、母、姉、妹の関係が明瞭でなくて、そこには若さの差別のある女が存在したばかりだったし、それらの女にとって父、兄、弟と・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
出典:青空文庫