・・・狼の和訓おおかみといえるは大神の義にて、恐れ尊めるよりの称なれば、おもうに我邦のむかし山里の民どもの甚く狼を怖れ尊める習慣の、漸くその故を失ないながら山深きここらにのみ今に存れるにはあらずや。 我邦には獅子虎の如きものなければ、獣には先・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・から、烏は熊野に八咫烏の縁で、猿は日吉山王の月行事の社猿田彦大神の「猿」の縁であるが如しと前人も説いているが、稲荷に狐は何の縁もない。ただ稲荷は保食神の腹中に稲生りしよりの「いなり」で、御饌津神であるその御饌津より「けつね」即ち狐が持出され・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・増鏡巻五に、太政大臣藤原公相の頭が大きくて大でこで、げほう好みだったので、「げはふとかやまつるにかゝる生頭のいることにて、某のひじりとかや、東山のほとりなりける人取りてけるとて、後に沙汰がましく聞えき」という事があって、まだしゃれ頭にならな・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・増鏡巻五に、太政大臣藤原公相の頭が大きくて大でこで、げほう好みだったので、「げはふとかやまつるにかゝる生頭のいることにて、某のひじりとかや、東山のほとりなりける人取りてけるとて、後に沙汰がましく聞えき」という事があって、まだしゃれ頭にならな・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・の口から説き勧めた答案が後日の崇り今し方明いて参りましたと着更えのままなる華美姿名は実の賓のお夏が涼しい眼元に俊雄はちくと気を留めしも小春ある手前格別の意味もなかりしにふとその後俊雄の耳へ小春は野々宮大尽最愛の持物と聞えしよりさては小春も尾・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・おまえは、大臣の前にでも坐っているつもりなのか。」と言って、機嫌が悪い。 あまり卑下していても、いけないのである。それでは、と膝を崩して、やや顔を上げ、少し笑って見せると、こんどは、横着な奴だと言って叱られる。これはならぬと、あわてて膝・・・ 太宰治 「一燈」
・・・おまえは、大臣の前にでも坐っているつもりなのか。」と言って、機嫌が悪い。 あまり卑下していても、いけないのである。それでは、と膝を崩して、やや顔を上げ、少し笑って見せると、こんどは、横着な奴だと言って叱られる。これはならぬと、あわてて膝・・・ 太宰治 「一燈」
・・・じっさい、あれほどの腕前を、他のまともな方面に用いたら、大臣にでも、博士にでも、なんにでもなれますよ。私ども夫婦ばかりでなく、あの人に見込まれて、すってんてんになってこの寒空に泣いている人間が他にもまだまだある様子だ。げんにあの秋ちゃんなど・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・じっさい、あれほどの腕前を、他のまともな方面に用いたら、大臣にでも、博士にでも、なんにでもなれますよ。私ども夫婦ばかりでなく、あの人に見込まれて、すってんてんになってこの寒空に泣いている人間が他にもまだまだある様子だ。げんにあの秋ちゃんなど・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・「どうでも大臣か何かにおなりになるのではございますまいか。わたくしは議事堂に心安いものを持っています。食堂の給仕をいたしております。もしこれから何か御用がおありなさるなら、その男をお使い下さるようにお願い申します。確かな男でございます。」・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
出典:青空文庫