・・・対談の作家たちが、もしこの現実の他面では自分たちがどんな貧弱な読者として置かれているかということを痛感していたなら、恐らくあの調子は変らざるを得なかったのだろうと思う。〔一九四一年二月〕・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・と幾多執筆された文学についての評論とは、その相互的関係において眺めて、やはり、今日この種の作家のおかれている条件の主観的客観的のむずかしさが痛感せしめられる。 本年の後半に入って、これまで描写のうしろにねてはいられないと、独特の話術をも・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ゴーリキイの生涯を通観してもそのことは分明なのである。 深田氏の「強者連盟」を読んでも印象されたことであるが、一般的にこんにち積極的意企をもった文学作品の中には、情熱を欲する感情というものが、つよく緊張していることを感じられる。しかし、・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・ このように通観して来ると、現在文学の大衆化を云々している作家の現実の中でも、まだまだ作家と大衆との間に実に大きい生活的な距離があり、大衆性そのものも十分に究明されていないことが分るのである。日本近代社会がその推移の過程で引き裂いた文化・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・その色の好きな人は、あるいは好きな間は、その色が見えるというだけで喜びを感じるであろうが、その色のきらいな人、あるいは飽きてきた人は、その色がありのままの物の姿を見るのにひどく邪魔になることを痛感させられる。それを感じはじめると、どの色とい・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
・・・ これらのことを思うとき、それぞれの文化産物が、それに固有な様式の理解のもとに鑑賞されねばならぬことを痛感する。街路樹もそれぞれに様式を持っている。城のごときモニュメンタルな営造物は一層そうである。人はそれぞれの時代的、風土的な特殊の様・・・ 和辻哲郎 「城」
・・・造形において眼がそういう役目を持っていることは、フロベニウスに言わせると、南フランスの洞窟の動物画以来のことであって、なにも埴輪人形に限ったことではないのであるが、しかし埴輪人形において特にこのことを痛感せしめられるということも、軽く見るわ・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
・・・これらは戦争の刺激によって芸術家が人生全体を通観する機会を与えられた、という事実を語るものではなかろうか。『イリアス』が古代世界を代表し、『神曲』が古代と中世とを包括し、『ファウスト』が古代中世近代の全体を一つの世界にまとめ上げた、というよ・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・少年時代以来の藤村の苦労を、作品を通じて通観し得たときに、私にはやっとこのことがわかった。この苦労が次の苦労を生んだのである。ありのままのおのれを卒直に投げ出すような気持ちになれるために、作者も主人公もあのような苦労を積み重ねなくてはならな・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫