・・・ ただし我が輩はもとより強迫法を賛成する者にして、全国の男女生れて何歳にいたれば必ず学につくべし、学につかざるをえずと強いてこれに迫るは、今日の日本においてはなはだ緊要なりと信ずれども、その学問の風をかくの如くして、その教授の書籍は何を・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
人間の腹より生まれ出でたるものは、犬にもあらずまた豕にもあらず、取りも直さず人間なり。いやしくも人間と名の附く動物なれば、犬豕等の畜類とは自ずから区別なかるべからず。世人が毎度いう通りに、まさしく人は万物の霊にして、生まれ・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・とするところは正しく中津旧藩の格式りきみを制し、これを制了して共に与に日本社会の虚威を圧倒せんとするもののごとくにして、藩士のこの学校に帰すると否とはその自然に任したりしに、士族の上下に別なく漸く学に就く者多く、なかんずく上等士族の有力なる・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・世の士君子、あるいは官途に就く者あり、あるいは商売に従事する者あり、あるいは旅行するものあり、あるいは転宅するものあり。その際に当たり、何らの箇条を枚挙して進退を決するや。世間よく子を教うるの余暇を得んがためにとて、月給の高き官を辞したる者・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・ ゆえに今、文部省より定めたる小学校の学齢、六歳より十四歳まで八年の間とあれども、貧民は決してこの八年の間、学に就く者なし。最初より学校に入らざる者はしばらくさしおき、たとい一度入学するも、一年にしてやめにする者あり、二年にして廃学する・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・即ち新夫婦相引く者をして益引かしめ、新旧相衝くの患を避けて遠く相引かしむるの法なり。世間無数の老人夫婦が倅に嫁を迎え娘に養子を貰い、無理に一家の中に同居して時に衝突を起せば、乃ち言く、是れ程に手近く傍に置て優しく世話するにも拘らず動もすれば・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・かりに今日、坊間の一男子が奇言を吐くか、または講談師の席上に弁じたる一論が、偶然にも古聖賢の旨にかなうとするも、天下にその言論を信ずる者なかるべし。如何となれば、その言の尊からざるに非ざれども、徳義上にその人を信ずるに足らざればなり。 ・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・かかる大切の場合に臨んでは兵禍は恐るるに足らず、天下後世国を立てて外に交わらんとする者は、努ゆめゆめ吾維新の挙動を学んで権道に就くべからず、俗にいう武士の風上にも置かれぬとはすなわち吾一身の事なり、後世子孫これを再演するなかれとの意を示して・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・人の意尽く張三に見われたりといわんか夫の李四を如何。若李四に見われたりといわんか夫の張三を如何。して見れば張三も李四も人は人に相違なけれど、是れ人の一種にして真の人にあらず。されば未だ全く人の意を見わすに足らず。蓋し人の意は我脳中の人に於て・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・――その解決が付けば、まずそのライフだけは収まりが付くんだから。で、私の身にとると「くたばッて仕舞え!」という事は、今でも有意味に響く。そこでこの心持ちが作の上にはどう現れているかと云うと、実に骨に彫り、肉を刻むという有様で、非常な苦労で殆・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
出典:青空文庫