・・・上田から長野へ電線で送られた唱歌が長野局から電波で放送され、それがエーテルを伝わってもとの上田の発源地へ帰って来ているのである。何でもない当り前の事であるが、ちょっと変な気のするものである。 あとで新聞を見たら、この地で七十年ぶりという・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・この方の専門的な立場から見れば、地震というものは、地球と称する、弾性体で出来た球の表面に近き一点に、ある簡単な運動が起って、そこから各種の弾性波が伝播する現象に外ならぬのである。そして実際多くの場合に均質な完全弾性体に簡単なる境界条件を与え・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・しかし崖に樹った電柱の処で崩壊の伝播が喰い止められているように見える。理由はまだよく分らないが、ことによるとこれは人工物の弱さを人工で補強することの出来る一例ではないかと思われた。両岸の崩壊箇所が向かい合っているのもやはり意味があるらしい。・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・からすれば、これらの伝播の前面は完全なる円形をなすはずであるが、実際の現象を注意して見ていると、円形になるほうがむしろ不思議なようにも思われて来る。たとえばアルコホルの沿面燃焼などはほとんど完全な円形な前面をもって進行するが、こういう場合は・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・はその記事の威力によって世界の現象自身を類型化すると同時に、その類型の幻像を天下に撤き広げ、あたかも世界じゅうがその類型で満ち満ちているかのごとき錯覚を起こさせ、そうすることによって、さらにその類型の伝播をますます助長するのである。ジャーナ・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・並んだ歯の一本がむしばみ腐蝕しはじめるとだんだんに隣の歯へ腐蝕が伝播して行くのを恐れるのであろう。しかし天下の歯がみんなむし歯になったらこんな言葉はもういらなくなる勘定であろう。 歯の役目は食物を咀嚼し、敵にかみつき、パイプをくわえ、ラ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 火山の爆音の異常伝播については大森博士の調査以来藤原博士の理論的研究をはじめとして内外学者の詳しい研究がいろいろあるが、しかし、こんなに火山に近い小区域で、こんなに音の強度に異同のあるのはむしろ意外に思われた。ここにも未来の学者に残さ・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・例えば塵埃に光波が当った時に、光電効果のような作用電子が放散され、それが高層空気の電離を起す事、それが無線電信の伝播に重大な関係を持ち得る事、あるいは塵が空中の渦動によって運搬されるメカニズムやその他色々の問題が残っている。限られた紙数では・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・それは地震の波が地殻を伝播する時に、陸地を通る時と海底を通る時とでその速度に少しの相違がある、そういう事実を説明すべき一つの理論の糸口のようなものであった。 とにかく一生懸命で絵を描いている途中でどうしてこんな考えが浮き上がって来たもの・・・ 寺田寅彦 「断片(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 大道蓄音機が文化の福音を片田舎に広めた事は疑いもないが、同時にあの耳にはさむ管の端が耳の病気を伝播させはしなかったかと心配する。今ならばフォルマリンか何かで消毒するだろうが、あのころそういう衛生上の注意が行き届いていたかどうか疑わしい・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
出典:青空文庫