・・・どこまで行ったら一休み出来るとか、これを一つ書いたら、当分、威張って怠けていてもいいとか、そんな事は、学校の試験勉強みたいで、ふざけた話だ。なめている。肩書や資格を取るために、作品を書いているのでもないでしょう。生きているのと同じ速度で、あ・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・「屋賃は当分だめですよ。」だしぬけに言ったのである。 僕は流石にむっとした。わざと返事をしなかった。「マダムが逃げました。」玄関の障子によりそってしずかにしゃがみこんだ。電燈のあかりを背面から受けているので青扇の顔はただまっくろ・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・ 日頃酒を好む者、いかにその精神、吝嗇卑小になりつつあるか、一升の配給酒の瓶に十五等分の目盛を附し、毎日、きっちり一目盛ずつ飲み、たまに度を過して二目盛飲んだ時には、すなわち一目盛分の水を埋合せ、瓶を横ざまに抱えて震動を与え、酒と水、両・・・ 太宰治 「禁酒の心」
・・・熊本君は、私たち二人に更に大いに喧嘩させて、それを傍で分別顔して聞きながら双方に等分に相槌を打つという、あの、たまらぬ楽しみを味わうつもりでいるらしかった。佐伯は逸早く、熊本君の、そのずるい期待を見破った様子で、「君は、もう帰ったらどう・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・それからお隣りの組長さんの玄関で、酒の九等分がはじまった。九本の一升瓶をずらりと一列に並べて、よくよく分量を見較べ、同じ高さずつ分け合うのである。六升を九等分するのは、なかなか、むずかしい。 夕刊が来る。珍しく四ペエジだった。「帝国・米・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・母と子とに等分に属するなどは不可能な事である。今夜から私は、母を裏切って、この子の仲間になろう。たとい母から、いやな顔をされたってかまわない。こいを、しちゃったんだから。「いつ、こっちへ来たの?」と私はきく。「十月、去年の。」「・・・ 太宰治 「メリイクリスマス」
・・・少し用心深く言ったところで、「当分」不可能である。罷職になって、スラヴ領へ行って、厚皮の長靴を穿く。飛んでもない事だ。世界を一周する。知識欲が丸でなくて、紀行文を書くなんと云うことに興味を有せない身にとっては、余り馬鹿らしい。 こう考え・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 人間の文化が進むに従ってこの門衛の肝心な役目はどうかすると忘れられがちで、ただ小屋の建築の見てくれの美観だけが問題になるようであるが、それでもまだこの門衛の失職する心配は当分なさそうである。感官を無視する科学者も時にはにおいで物質を識・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・換言すれば週期的運動の位相がほぼ等分にちがっているほうが乗客の待ち合わせる時間を均等にし従って乗客の数を均等に分布する点で便利であろうと思われる。しかし実際には三つがほぼ同時に同じ階を同じ方向に通過する場合が多いように思われる。もっともそう・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・あまり立派でない外套を着たままで、めがねの上から子供とお客とを等分に見ながら、鼻へ掛かった声でだいぶ長く述べ立てました。ワイナハトの起原などから話しましたが、子供の咳は絶え間なしで騒々しく、咳の出ない子はだいぶ退屈しているようでした。きょう・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
出典:青空文庫