・・・その得失、左の如し。一、官に学校を立つれば、金穀に差支えなくして、書籍器械の買入はもちろん、教師へも十分に給料をあたうべきがゆえに、教師も安んじて業につき、貧書生も学費を省き、書籍に不自由なし。その得、一なり。一、官には黜陟・与奪の・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・草書を楷書に変じ、平仮名を片仮名にせんとするも、容易に行われ難き通俗世界の人民へ、横文左行の帳合法を示すも、人民はその利害得失を問うにいとまあらず、まずその外見の体裁に驚きてこれを避くることならん。 ゆえに、今の横文字の帳合法は、一家に・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・これらは皆、事の近因として、さらにこの近因を生じたる根本の大原因に溯るに非ざれば、事の得失を断ずるに足らざるを信ずるものなり。けだしその原因とは何ぞや。我が開国に次で政府の革命、すなわちこれなり。 開国以来、我が日本人は西洋諸国の学を勉・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・学流を立て、たがいに相誹謗するよし。もってのほかの事なり。学問とはただ紙に記したる字を読むことにて、あまりむつかしき事にあらず。学流得失の論は、まず字を知りて後の沙汰なれば、あらかじめ空論に時日をついやすは益なき事なり。人間の智恵をもって、・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・もいえる如く、日本男児の品行を正し、その高きに過ぐる頭を取って押さえ、男女両性の地位に平均を得せしめんとするの目的を以て論緒を開き、人間道徳の根本は夫婦の間にあり、世間の道徳論者が自愛博愛などとてその得失を論ずる者あれども、本来私徳公徳の区・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・これは確かに欧文の一特質である。 処が、日本の文章にはこの調子がない、一体にだらだらして、黙読するには差支えないが、声を出して読むと頗る単調だ。啻に抑揚などが明らかでないのみか、元来読み方が出来ていないのだから、声を出して読むには不適当・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・ 今日、諸雑誌や新聞の上に溢れているルポルタージュは、そういう本来の特質に対して、どういう現れを示しているであろうか。 吉川英治、林房雄、尾崎士郎、榊山潤の諸氏によって、作家の戦線ルポルタージュは色どり華やかである。綜合雑誌の読者は・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・明治維新の誰でも知っているこういう特質は、「四民平等」となって、ふるい士農工商の身分制を一応とりさったようでも、数百年にわたった「身分」の痕跡は、人民生活のなかに強くのこりつづけた。明治文学の中期、樋口一葉や紅葉その他の作品に、「もとは、れ・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・の理解の問題がひそめられているし、各作家の特質についての具体的観察の問題があり、創造活動のうちに包括される啓蒙のための文筆活動の評価の問題もある。『戦旗』が一九二九年ごろ、片岡鉄兵の「アジ太・プロ吉世界漫遊記」をのせて大好評であった。一・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・デュガールは、ジャックをとりかこむそれぞれの時期における社会的環境の特質とジャックの人間性の覚醒――自意識のめざめの段階とを対決させつつ、ジャックとその社会の動きを描いている。ジャックという一人の人間が、一定の社会史の期間をとおして、その矛・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
出典:青空文庫