・・・「君は何か芸術家というものを、何か特種な、経済なんてものの支配を超越した特別な世界のもののように考えているのかもしれないが、みたまえ! そんな愚かな考えの者は、覿面に世の中から手ひどいしっぺ返しを喰うに極っているから」「いや僕もけっ・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・それはまあ一般に言えば人の秘密を盗み見るという魅力なんですが、僕のはもう一つ進んで人のベッドシーンが見たい、結局はそういったことに帰着するんじゃないかと思われるような特殊な執着があるらしいんです。いや、そんなものをほんとうに見たことなんぞは・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・ 喬はその話を聞いたとき、女自身に病的な嗜好があるのなればとにかくだがと思い、畢竟廓での生存競争が、醜いその女にそのような特殊なことをさせるのだと、考えは暗いそこへ落ちた。 その女はおしのように口をきかぬとS―は言った。もっとも話を・・・ 梶井基次郎 「ある心の風景」
・・・との一念が執念くも細川の心に盤居まっていて彼はどうしてもこれを否むことが出来ない、然し梅子が平常何人に向ても平等に優しく何人に向ても特種の情態を示したことのないだけ、細川は十分この一念を信ずることが出来ぬ。梅子が泣いて見あげた眼の訴うるが如・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・じつに武蔵野にかかる特殊の路のあるのはこのゆえである。 されば君もし、一の小径を往き、たちまち三条に分かるる処に出たなら困るに及ばない、君の杖を立ててその倒れたほうに往きたまえ。あるいはその路が君を小さな林に導く。林の中ごろに到ってまた・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・ただ文芸には文芸の約束があり、倫理学にはその特殊の約束があるのみである。カントの道徳哲学を読んで人間理性の自律の崇高感に打たれないものはないであろう。 倫理学は人間行為の指導原理と法則とを与えようとするのみならず、また学者の個性をも表現・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ここには同じ宗教的日本主義者として今日彼に共鳴するところの多い私が、私の目をもって見た日蓮の本質的性格と、特殊的相貌の把握とを、今の日本に生きつつある若き世代の青年たちに、活ける示唆と、役立つべき解釈とによって伝えたいと思うのである。・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・女優や、音楽家や、画家、小説家のような芸術的天分ある婦人や、科学者、女医等の科学的才能ある婦人、また社会批評家、婦人運動実行家等の社会的特殊才能ある婦人はいうまでもなく、教員、記者、技術家、工芸家、飛行家、タイピストの知能的職業方面への婦人・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・ 俺れらを特種にするよりゃ、さきに、内地の事情を知らすがいゝ。」 彼等は、記者が一枚の写真をとって部屋を出て行くと、口々にほざいた。「俺ら、キキンで親爺やおふくろがくたばってやしねえか、それが気にかゝってならねえや!」三 前・・・ 黒島伝治 「前哨」
農民文学に対する、プロレタリア文学運動の陣営内における関心は、最近、次第にたかまってきている。日本プロレタリア作家同盟では、農民文学に対する特殊な研究会が持たれた。ハリコフでの国際革命作家拡大プレナムの決議は日本のプロレタ・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
出典:青空文庫