・・・ いえね、それについて、お前さん――あなたの前だけども、お友だちの奥さん、京千代さんは、半玉の時分、それはいけずの、いたずらでね、なかの妹は、お人形をあつかえばって、屏風を立てて、友染の掻巻でおねんねさせたり、枕を二つならべたり、だっ・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・……次にまた浴衣に広袖をかさねて持って出た婦は、と見ると、赭ら顔で、太々とした乳母どんで、大縞のねんね子半纏で四つぐらいな男の児を負ったのが、どしりと絨毯に坊主枕ほどの膝をつくと、半纏の肩から小児の顔を客の方へ揉出して、それ、小父さんにをな・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・持ってくるはずのねんねこを忘れてきたのに気がついて、「長吉や、ここに待っておいで、母ちゃんは、すぐ家へいってねんねこを持ってくるからな。どこへもいくでねえよ。」 子供は、だまって、うなずきました。 おきぬは、ゆきかけて、またもど・・・ 小川未明 「谷にうたう女」
・・・て、こわいことねえ、だから黙ってねんねおし』「困るね、そんな事を言っても坊にゃわからないのだからお前さえ黙ればいいんだよ』『貞坊や、坊やはお話がわからないとサ、「わかりますッ」てお言い、坊やわかりますよッて』 右の始末に候間小生・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・「ねんねしなされ、おやすみなされ。鶏がないたら起きなされ」と歌う。艶やかな声である。「おきて往なんせ、東が白む。館々の鶏が啼く」と丘を下りてしまうと、歌うのは角の豆腐屋のお仙である。すべてこの島の女はよく唄を歌う。機を織るにも畠を打・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・すると、勇吉は、炉ばたでちびちび酒を飲みながら、「そげえに若えもん叱るでねえよ、今に何でもはあ、ちゃんちゃんやるようになる、おきいはねんねだごんだ」「何がねんねだ! ひとが聞いたらふき出すっぺえ。ねんね嫁け! お前」 きいはつら・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・坊やはいい子だ。ねんねおし。 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫