・・・たとえば政府の議定をもって、一時租税を苛重にして国民の苦しむあるも、その法を除くときはたちまち跡を見ず。今日は鼓腹撃壌とて安堵するも、たちまち国難に逢うて財政に窘めらるるときは、またたちまち艱難の民たるべし。いわんや、かの戦争の如き、その最・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・をやめて代りに「火桶」の形容詞など置くべく、結句は「火桶すわりをる」のごとき句法を用うるか、または「○○すわりをる」「すわり○○をる」のごとく結びて「哉」を除くべし。かつふれて巌の角に怒りたるおとなひすごき山の滝つせ この歌・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・蕪村に至りては阿古久曽のさしぬき振ふ落花かな花に舞はで帰るさ憎し白拍子花の幕兼好を覗く女ありのごとき妖艶を極めたるものあり。そのほか春月、春水、暮春などいえる春の題を艶なる方に詠み出でたるは蕪村なり。例えば伽・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 従来の誤った結婚観念、習慣、制度を改正し、簇出しつつある多くの不正、不幸を取除くために正当な離婚法が制定されることは急務です。然し、究極に於て各人の叡智と愛との根源に還る問題ではありますまいか。 人類の最も本質的な、最も純粋である・・・ 宮本百合子 「心ひとつ」
・・・が、二度三度場所をかえて覗くと、勢をつけて、さっと餌壺の際に下り立った。そして、粟を散らしながらツウツウと短い暖味のある声で雌を呼び寄せるのである。 雌を驚かせて、気の毒には思うが、自分には、実に心深い見ものであった。こればかりでなく、・・・ 宮本百合子 「小鳥」
・・・会議はパリで開かれ、参集国は日本を除く二十八ヵ国、代表者は二百三十名。まことに興味ある次の如き議題で世界的に討論された。一。文化遺産二。ヒューマニズム三。民族と文化四。個人五。思想の尊厳六。社会に於る作家の役割七・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・彼等としては、普通に国で女の子と喋る時のように喋っているつもりであろうけれども、その栄養のよい体の楽々とした吊皮への下りようや、何か云っては娘の顔を覗く工合が、周囲の疲労し空腹な男女の群の中にあって、どうしても、独得な雰囲気をなしているので・・・ 宮本百合子 「その源」
・・・こう云って、息子の顔を横から覗くように見て、詞を続けた。「ゆうべも大層遅くまで起きていましたね。いつも同じ事を言うようですが、西洋から帰ってお出の時は、あんなに体が好かったのに、余り勉強ばかりして、段々顔色を悪くしておしまいなのね。」「・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・戦略戦術の書を除く外、一切の書を読まない。浄瑠璃を聞いても、何をうなっているやらわからない。それが不思議な縁で、ふいと浪花節と云うものを聴いた。忠臣孝子義士節婦の笑う可く泣く可く驚く可く歎ず可き物語が、朗々たる音吐を以て演出せられて、処女の・・・ 森鴎外 「余興」
・・・暫くして、彼はソッと部屋の中を覗くと、婦人がひとり起きて来て寝巻のまま障子を開けた。「坊ちゃんはいい子ですね。あのね、小母さんはまだこれから寝なくちゃならないのよ。あちらへいってらっしゃいな。いい子ね。」 灸は婦人を見上げたまま少し・・・ 横光利一 「赤い着物」
出典:青空文庫