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・・・あらゆる抗抵に打ち勝って生じ、伸びる。定めて花屋の爺いさんの云ったように、段々球根も殖えることだろう。 硝子戸の外には、霜雪を凌いで福寿草の黄いろい花が咲いた。ヒアシントや貝母も花壇の土を裂いて葉を出しはじめた。書斎の内にはサフランの鉢・・・
森鴎外
「サフラン」
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・・・ 緞帳の間から逞しい一本の手が延びると、床の上にはみ出ていた枕を中へ引き摺り込んだ。「陛下、今宵は静にお休みなされませ。陛下はお狂いなされたのでございます」 ペルシャの鹿の模様は鎮まった。彫刻の裸像はひとり円柱の傍で光った床の上・・・
横光利一
「ナポレオンと田虫」