・・・その村の年よりたち、牛や馬、犬、子供たち、ばかの乞食、気味のわるい半分乞食のようなばあさん、それらの人々の生活は、山々の眺望や雑木林の中に生えるきのことともに、繭が鍋の中で煮えている匂いとともにわたしの少女時代の感覚の中に活々と存在していた・・・ 宮本百合子 「作者の言葉(『貧しき人々の群』)」
・・・そこに輝やかしきものの源泉があることは当然であるが、それが泉であればあるほど、泉の周囲に生える毒草や飛びこむ害虫がとりのぞかれなければならないのも当然であるまいか。 大衆、民衆というものを、感傷的に一般化して気分的にその現実、日常性との・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・ 山の多い湖の水の澄んだ村に生える草には姿もその呼名もつり合って居る。 牛乳屋の小僧 この桑野村で始めて牧牛を始めた石井と云う牛乳屋の家に居る小僧なのだ。 七八つの子の体をして居るが年を聞けば十二だそうでいか・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・ 年とった人なんかは、「まかないものが生えるなんて、それでさえ一寸妙だのに…… それに違いないきっと魔がさしたんだ」なんかと云ってその日は常よりも読経の時を長くし御線香も倍ほどあげたりして居た。 夜から私達は庭に出る度に・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・雪の降りよう、作物の育ちよう、そこに生える雑草や虫の生活を眺めることは、そこで暮している人々の生活にある様々の風俗・習慣等の観察からのびて行った目なのである。 小説家としての藤村は明治三十八年脱稿された「破戒」によって、立派な出発をした・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・ 日本の新しい歴史教科書『国のあゆみ』がその精神において低劣なのは、あの本のどこにも日本人民のエネルギーの消長が語られていず、まるで秋雨のあと林にきのこが生える、というように日本の社会的推移をのべている点である。毛穴のない人工皮膚のよう・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・なぜなら、闇屋は最近の日本の破滅的な生産と経済と官僚主義の間から生えたきのこであり、谷崎、荷風はそんなきのこの生える前からそこに立っていた資本主義社会の発生物であったのだから。 しかし作家の生きてゆく社会的感覚と作品の生きてゆき方――作・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・―― このような豊富で脂濃い生活の獣的な屑を貫いて、「猶新鮮で健康な創造的なものがやっぱり勝を制して芽生えること、明るい人間的な生活に対する我等の再生に対する破壊し難い希望を呼び醒しつつ、善きもの――人間的なものが生い立つ」ロシア民衆の・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・正義派で、その生涯では大した金も残さず、しかもその僅かの財産も、没後は後継の人の非生産的な生活や、いろいろな家族内の紛糾のために何も無くなって、母は晩年、自分の少女時代の思い出のある土地の上に、雑草の生えるのを見て亡くなりました。 結婚・・・ 宮本百合子 「わが母をおもう」
・・・ 学問の自由研究と芸術の自由発展とを妨げる国は栄えるはずがない。 森鴎外 「文芸の主義」
出典:青空文庫