・・・そうしてぷりぷり怒りながら、浅川の叔母に話して聞かせた。のみならず叔母が気をつけていると、その後も看護婦の所置ぶりには、不親切な所がいろいろある。現に今朝なぞも病人にはかまわず、一時間もお化粧にかかっていた。………「いくら商売柄だって、・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・まして雇い人などに対しては、最も皮肉な当り方をするので、吉弥はいつもこの娘を見るとぷりぷりしていた。その不平を吉弥はたびたび僕に漏らすことがあった。もっとも、お君さんをそういう気質に育てあげたのは、もとはと言えば、親たちが悪いのらしい。世間・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ あ、軽部の奴また待ち呆けくわせやがったと、相手の人がぷりぷりしている頃、あの人は京阪電車に乗っている。じつは約束を忘れたわけではなく、それどころか、最後の切札に、大阪の実家へ無心に帰るのである。たび重なって言いにくいところを、これも約・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・彼は不機嫌に怒って、ぷりぷりしていた。十八貫もある、でっぷり肥った、髯のある男だ。彼の靴は、固い雪を蹴散らした。いっぱいに拡がった鼻の孔は、凍った空気をかみ殺すように吸いこみ、それから、その代りに、もうもうと蒸気を吐き出した。 彼は、屈・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・せられ、奥さまはきっと一睡も出来なかったでしょうが、他の連中は、お昼すぎまでぐうぐう眠って、眼がさめてから、お茶づけを食べ、もう酔いもさめているのでしょうから、さすがに少し、しょげて、殊に私は、露骨にぷりぷり怒っている様子を見せたものですか・・・ 太宰治 「饗応夫人」
・・・梗いろの冷たい天盤には金剛石の劈開片や青宝玉の尖った粒やあるいはまるでけむりの草のたねほどの黄水晶のかけらまでごく精巧のピンセットできちんとひろわれきれいにちりばめられそれはめいめい勝手に呼吸し勝手にぷりぷりふるえました。 私はまた足も・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・一郎はこたえましたが耕一はぷりぷり怒っていました。又三郎が昨日のことなど一言も云わずあんまりそらぞらしいもんですからそれに耕一に何も云われないように又日曜のことなどばかり云うもんですからじっさいしゃくにさわったのです。そこでとうとういきなり・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ ねずみ捕りは、はりがねをぷりぷりさせておこっていましたので、ただ一こと、「お食べ。」と言いました。ツェねずみはすぐプイッと飛びこみましたが、半ぺんのくさっているのを見て、おこって叫びました、。「ねずみとりさん。あんまりひどいや・・・ 宮沢賢治 「ツェねずみ」
・・・ 樺の木はもうすっかり恐くなってぷりぷりぷりぷりゆれました。土神は歯をきしきし噛みながら高く腕を組んでそこらをあるきまわりました。その影はまっ黒に草に落ち草も恐れて顫えたのです。「狐の如きは実に世の害悪だ。ただ一言もまことはなく卑怯・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・ じいさんはぷりぷり怒ってぐんぐんつめ草の上をわたって南の方へ行ってしまいました。「じいさん。お待ちよ。また馬を冷しに連れてってやるからさ。」ファゼーロが叫びましたが、じいさんはどんどん行ってしまいました。ミーロはしばらくだまってい・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫