・・・ひとに侮辱をされはせぬかと、散りかけている枯葉のように絶えずぷるぷる命を賭けて緊張している。やり切れない悪徳である。僕は、草田の家には、めったに行かない。生家の母や兄は、今でもちょいちょい草田の家に、お伺いしているようであるが、僕だけは行か・・・ 太宰治 「水仙」
・・・その朝、父は私にも一緒に行くようにすすめて下さったのですが、私は何だか、こわくて、下唇がぷるぷる震えて、とてもお伺いする元気が出なかったのです。父は、その晩、七時頃にお帰りになって、岩見さんは、まだお年もお若いのに、なかなか立派なお人だ、こ・・・ 太宰治 「千代女」
・・・ せなかに草束をしょった二匹の馬が、一郎を見て鼻をぷるぷる鳴らしました。「兄な、いるが。兄な、来たぞ。」一郎は汗をぬぐいながら叫びました。「おおい。ああい。そこにいろ。今行ぐぞ。」ずうっと向こうのくぼみで、一郎のにいさんの声がし・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・穂吉はどうしたのか折られた脚をぷるぷる云わせその眼は白く閉じたのです。お父さんの梟は高く叫びました。「穂吉、しっかりするんだよ。今お説教がはじまるから。」 穂吉はパチッと眼をひらきました。それから少し起きあがりました。見えない眼でむ・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
出典:青空文庫