・・・連歌はさまで心を入れたでもなかろうが、それでも緒余としてその道を得ていた。法橋紹巴は当時の連歌の大宗匠であった。しかし長頭丸が植通公を訪うた時、この頃何かの世間話があったかと尋ねられたのに答えて、「聚落の安芸の毛利殿の亭にて連歌の折、庭の紅・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・それで年の豊凶を予察するには結局その年の七、八月における気温や日照の積分額を年の初めに予知することが出来れば少なくも大体の見当はつくということになる。 気温や日照を人為的に支配することは現在の科学の力では望むことが出来ない。しかし年の初・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・着物の青も豊頬の紅も昔よりもかえって新鮮なように思われるのであった。 ただ一瞥を与えただけで自分は惰性的に神保町の停車場まで来てしまった。この次に見つけたらあれを買って来るのだと思いついた時には、自分をのせた電車はもう水道橋を越えて霜夜・・・ 寺田寅彦 「青衣童女像」
・・・常に勝る豊頬の色は、湧く血潮の疾く流るるか、あざやかなる絹のたすけか。ただ隠しかねたる鬢の毛の肩に乱れて、頭には白き薔薇を輪に貫ぬきて三輪挿したり。 白き香りの鼻を撲って、絹の影なる花の数さえ見分けたる時、ランスロットの胸には忽ちギニヴ・・・ 夏目漱石 「薤露行」
出典:青空文庫