・・・新聞の報ずるところによると幸いに当局でもこの点に注意してこの際各種建築被害の比較的研究を徹底的に遂行することになったらしいから、今回の苦い経験がむだになるような事は万に一つもあるまいと思うが、しかしこれは決して当局者だけに任すべき問題ではな・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・責を重んじ、心を虚にして気を平にし、内に自からかえりみて、はたして心に得るものあらば、読書の士君子を助けてその術を施さしめ、読書家もまた己れを忘れて力をつくし、ともに天下の裨益を謀り、一国独立の大義を奉ずる事あらば、また善からずや。・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・かの西洋諸国の人民がいわゆる野蛮国なるものを侵して、次第にその土地を奪い、その財産を剥ぎ、他の安楽を典して自から奉ずるの資となすが如き、その処置、毫も盗賊に異ならず。 在昔、欧羅巴の白人が亜米利加に侵入してその土人を逐い、英人が印度地方・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・既に哺乳の時を過ぎて後も、子供の飲食衣服に心を用いて些細の事までも見遁しにせざるは、即ち婦人の天職を奉ずる所以にして、其代理人はなき筈なり。飲食衣服は有形の物にして誰れの手を以て与うるも同様なるに似たれども、其これを与うるの間に母徳無形の感・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・すなわちその極点は、この教を奉ずる国民の公議輿論に適すべき部分にかぎりて働を呈し、それ以上においては輿論のために制せらるるを常とす。 たとえば支那と日本の習慣の殊なるもの多し。就中、周の封建の時代と我が徳川政府封建の時代と、ひとしく封建・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・殊に政府の新陳変更するに当りて、前政府の士人等が自立の資を失い、糊口の為めに新政府に職を奉ずるがごときは、世界古今普通の談にして毫も怪しむに足らず、またその人を非難すべきにあらずといえども、榎本氏の一身はこれ普通の例を以て掩うべからざるの事・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ 左れば自国の衰頽に際し、敵に対して固より勝算なき場合にても、千辛万苦、力のあらん限りを尽し、いよいよ勝敗の極に至りて始めて和を講ずるか、もしくは死を決するは立国の公道にして、国民が国に報ずるの義務と称すべきものなり。すなわち俗にいう瘠・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・この時、疾翔大力は、上よりこれをながめられあまりのことにしばしは途方にくれなされたが、日ごろの恩を報ずるは、ただこの時と勇みたち、つかれた羽をうちのばし、はるか遠くの林まで、親子の食をたずねたげな。一念天に届いたか、ある大林のその中に、名さ・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・ 就てはこれより約五分間私の奉ずる神学の立場より諸氏の信条を厳正に批判して見たいと思うのであります。然るに私の奉ずる神学とは然く狭隘なるものではない。私の奉ずる神学はただ二言にして尽す。ただ一なるまことの神はいまし給う、それから神の摂理・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・法王の申した事もござるし又私としても死するより恥な破門をうけた王の命令を奉ずるのは神の御名を汚す事になるから同じ意見のものと皆かたらって命令は奉ぜぬ事に致した。 と申すのじゃ。 叛逆を起すにわざわざ知らせて寄こいたのじゃ。・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫