・・・私の兄さんなんか、国の為に死ななきゃならない義理は無いわ、ほほ、死ぬのが名誉だッて。』 其方の声がぴたと止まったら、何なすったかと思って見ると、彼の可厭な学生が其の顔を凝乎と見て居るのでした。『あらッ、また来てよ。』 若子さんと・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・の中にたのしみは木芽にやして大きなる饅頭を一つほほばりしときたのしみはつねに好める焼豆腐うまく烹たてて食せけるときたのしみは小豆の飯の冷たるを茶漬てふ物になしてくふ時 多言するを須いず、これらの歌が曙覧ならざる人の口・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ おつきさんおつきさん まんまるまるるるん おほしさんおほしさん ぴかりぴりるるん かしわはかんかの かんからからららん ふくろはのろづき おっほほほほほほん。」 かしわの木は両手をあげてそりかえったり、頭や足を・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・「へえ……それでそのおきみっ子は? 逃げているの、やっぱり」「寝てますのよ! 一緒に寝てますのよあなた、吉さとさ!」「ほほう!」 徐ろに、笑えて来た。笑いが辛抱し切れなくなり、私は、遂にはははと、腹からふき出した。 何と・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・ステッキをその男はゆうゆうついている。ほほう! 燈柱の堂々たる橋がある。 公園だ。十月革命の犠牲者の記念がある。三色菫の花盛りだ。赤っぽい小砂利が綺麗にしきつめられ、遠くの木立まですきとおる静寂が占めている。木立の上で、・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ ほほう、ここには専門学校まであるのか! 訊いて見たら学校はまだ建っていないがゴルロフカ炭坑に働いている専門技術家が教師となり、半年、一年、二年とそれぞれ程度の違う技術教育を行い、プロレタリアの幹部、指導者を養成しているのだ。 ここ・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・ そう思って心の中に住んで居る小さいものにきこうとしてフト何か思いあたったようにそのほほをポッと赤くしてひそんで居るものを見出して居るようにあたりを見まわした。「ネー若様、この頃貴方様はどうか遊ばしましてすネー。私達にはもうちゃんと・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・その人から借りたわけでしたが、当時はぼんやりしていたが、満州事件が起ってから新聞で見ると、かつて大家であった本庄という軍人は、外ならぬ関東軍指令官の本庄大将であるのが分って、ほほう、というような訳でした。 この小説は題が示す通り、一人の・・・ 宮本百合子 「「伸子」について」
・・・ ほほけ立った幸雄の黒い後頭部を見ていた石川は、うっかりしていたが不意に不安に襲われた。石川は腐った桜餅を縁側に置いて立ち上った。「……どうなさいました?――」 幸雄はそろそろ顔を挙げてこちらを向いた。それを見て石川は心に衝撃を・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・「女々しいこと。何でおじゃる。思い出しても二方(新田義宗と義興の御手並み、さぞな高氏づらも身戦いをしたろうぞ。あの石浜で追い詰められた時いとう見苦しくあッてじゃ」「ほほ御主、その時の軍に出なされたか。耳よりな……語りなされよ」「・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫