・・・それはそのはずです。槙雑木でも束になっていれば心丈夫ですから。 それからもう一つ誤解を防ぐために一言しておきたいのですが、何だか個人主義というとちょっと国家主義の反対で、それを打ち壊すように取られますが、そんな理窟の立たない漫然としたも・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・桑の実も旨い。槙の実も旨い。くうた事のないのは杉の実と万年青の実位である。〔『ホトトギス』第四巻第六号 明治34・3・20 一〕○覆盆子を食いし事 明治廿四年六月の事であった。学校の試験も切迫して来るのでいよいよ脳が悪くなった。これ・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・ ガタンコガタンコ、シュウフッフッ、 凍えた砂利に 湯げを吐き、 火花を闇に まきながら、 蛇紋岩の 崖に来て、 やっと東が 燃えだした。 ガタンコガタンコ、シュウフッフッ、 鳥がなきだし 木は光り、・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・ヤグラの上で、盆祭りの赤い腰まきを木の間にちらつかせて涼んでいる農家のかあさんたちは、この稲田の壮観と、自分たちの土地というものについて何と感じているだろうか。この稲田に注がれている農村の女の労働力はいかばかりかしれないのに、日本の家族制度・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・佐多稲子、松田解子、平林たい子、藤島まき、壺井栄などがそうである。これらの婦人作家は、みな少女時代から辛苦の多い勤労の生活をして来て、やがて妻となり母となり、本当に女として生きてゆく希望、よろこび、その涙と忍耐とを文学作品に表現しようとして・・・ 宮本百合子 「明日咲く花」
・・・従前から、創作活動旺盛化の課題がわれらの前にあった折から、この気分は同盟内に新たな意識で創作活動と組織活動との統一の問題をまき起したのである。そして、この問題に対する同盟員の感情も微妙な複雑性を示した。 一方には、組織活動をしないでいい・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・このごろの夏の雨にしめりつづけてたきつけにくい薪のこと、そのまきが乏しくて、買うに高いこと。干しものがかわかなくて、あした着て出るものに不自由しがちなこと。シャボンがまた高くなったこと。夏という日本の季節を爽快にすごすことも一つの文化だとす・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・「あれはお父様が西洋のねまきだってさ」 そう云って母は青々と木の茂った庭へ目をやったきりだった。その庭の草むしりを、母は上の二人の子供あいてに自分でやっているのだった。ねまきはいいものでないということは、子供の心にもわかって、だまっ・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ 犬の引く小さい運搬用橇 石炭をつんでゆく馬橇 女のカクマキ姿 空、晴れてもあの六七月頃の美しさなく、煙突から出る煤で曇って居る。 雪をかきわけて狭くつけた道にぞろぞろ歩く人出。 冬ごもり ○自由・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
出典:青空文庫