・・・作者は作品に対する自己のモティーヴなどに心を煩わされることなく、書けないという往年の作家たちの悩みなどは無縁な心情で、対象への愛や凝視に筆足を止められず、書くという状態になった。 人間を文学に再び息づかせるには、作家が先ず人間への愛をそ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・そのなかに打ち交わりながら、自分の苦悩がこの若い人たちとは無縁であること、そして、自分の苦しみは見っともなくて重苦しいことを何と切なく感じたことだろう。午後になって、みんな海岸へ出かけた。暖かい晩秋の日光が砂丘をぬくめているところへ、一列に・・・ 宮本百合子 「青春」
・・・討論の中心は、文学サークルが経済・政治闘争と無縁であり得ないという点と新日本文学会の指導のもとにおかれるべきかどうかという点にむけられた。もし経済・政治闘争と無関係であり得ないということを肯定するならば、結局プロレタリア文学運動時代のサーク・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・「家の娘も貴方様、先に二度ほど婿を取ってやりましたがはあ無縁でない、 皆落つきませんだ。」 こんな事を云って一度目のは「さき」が十八の時来たんだそうだけれ共その時は女の方で虫が好かないで離縁して仕舞い二十二の時二度目のが来たけれ・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・そして今日では、都会での米、味噌、水にかかわることとして見られる部分があると云っても、あながち文学と全く無縁なものと笑殺され切らぬところも現実の相貌のこわい面白さだと思う。〔一九四〇年七月〕・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・もに燦く富の力はそれらの青年たちのまるで身近くまでちかづいて、クライドのようにそのなかに入ったように見えるところまで来て、さていざとなると、富める者は自分たちの気まぐれな触手をさっと引っこめて、貧しい無援な青年の生涯は悲しく浪費されてゆくこ・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・荷風が、弱々しき気むずかしさでそれらの女の生活と内容に自身を無縁なものと感じ、恋愛の対象としての女を花柳界の人々に求めたことも理解される。荷風は花柳界が時代にとりのこされているものであることも十分承知の上で、ただこのマンネリズムの中にだけ彼・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・も、それは先ず、イタリーを中心としたヨーロッパの重商主義的な商業の大発達、ハンザ同盟、諸大学の設立、部分的ではあるが婦人の向学心も承認されて、スペインのコルド大学には数人の婦人学者も生れた事情とは全く無縁であった。封建日本の知識人たちは一部・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ ツァウォツキイは無縁墓に埋められたのである。ところがそこには葬いの日の晩までしかいなかった。警察の事に明るい人は誰も知っているだろうが、毎晩市の仮拘留場の前に緑色に塗った馬車が来て、巡査等が一日勉強して拾い集めた人間どもを載せて、拘留・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫