・・・ 其等の感謝から起った、何か上げたいな、という心持は、今日自分にこまこました玩具だの、袋だのを買わせた。 木製のカヌーだの、絵だのの中に一つ小さい可愛い、インディアンシューズがある。 此は全く小さくて、可愛い。白皮に此も雪白のう・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・ これが木精である。 フランツはなんにも知らない。ただ暖かい野の朝、雲雀が飛び立って鳴くように、冷たい草叢の夕、こおろぎが忍びやかに鳴く様に、ここへ来てハルロオと呼ぶのである。しかし木精の答えてくれるのが嬉しい。木精に答えて貰うため・・・ 森鴎外 「木精」
・・・西日の射しこみ始めた窓の外で、一枚の木製の簾が垂れていた。栖方はそれを見ながら、「先日お宅から帰ってから、どうしても眠れないのですよ。あの簾が眼について。」と云って、なお彼は窓の外を見つづけた。「僕はあの簾の横板が幾つあったか忘れたので・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫