・・・コンディトライには家庭的な婦人の客が大多数でほがらかににぎやかなソプラノやアルトのさえずりが聞かれた。 国々を旅行する間にもこの習慣を持って歩いた。スカンディナヴィアの田舎には恐ろしくがんじょうで分厚でたたきつけても割れそうもないコーヒ・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・女の軟かい頬であり、声高に議論するその声は、どうしたってテノールやバスではあり得ない。女のアルトであり、若々しいソプラノであるだろう。握る拳さえ、女は女のこぶしを握るのである。本質の女らしくなさ、がどこにあるだろう。そうして、活溌に論じ、行・・・ 宮本百合子 「「女らしさ」とは」
・・・木食上人、ブレーク、アルトの歌手。それとこの家! 実にびっくりして凄いような気がしました。Yの父は三井の大したところの由。私はブリティシュ・ミューゼアムで、ブレークの絵を見たときの印象を思い出し、ああいう特殊な世界にあってもとにかく清澄きわ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 黒板に何か書いたチョークを、両手の指先に持ち、眉間に一つ大きな黒子のある、表情の重味ある顔を、心持右か左に傾けながら、何方かと云うと速口な、然し聞とり易い落付いたアルトの声で、全心を注ぎ、講義された俤が、今に髣髴としている。 先生・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・女が歌えばソプラノにもアルトにもなるけれども、それは女の芸当ではない、もっと真面目なものです。ですから、或る時代に婦人作家が大変に擡頭した場合にも、真面目な婦人作家は苦しみました。それは妙な女っぽさを要求されたからです。ざっくばらんにいえば・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・美しいソプラノの出る、または味のあるアルトの出るよい女性の喉を持ってさえおれば、声楽家として第一の必須条件は生理的に具わっている。規律正しい練習、健康法、その他の勉強をしてゆくに強大な忍耐と意志と聰明さがいる。そして、そういう音楽勉強の許さ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
出典:青空文庫