・・・君は、二言目には、貧乏、貧乏といって、悲壮がっているようだが、エゴの自己防衛でなかったら幸いだ。人に不義理はしていねえ、という事が唯一の誇りだとか言っているが、無理なつき合いはしたくねえ、というケチな言葉も、その裏にはありはしないか。自分は・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ エゴが喪失してしまっているのだ。それから、――と言いかけて、これも言いたくなし。もう一つ言える。私を信じないやつは、ばかだ。 さて、兵隊さんの原稿の話であるが、私は、てれくさいのを堪えて、編輯者にお願いする。ときたま、載せてもらえ・・・ 太宰治 「鴎」
・・・あきらめ切ったエゴの中で、とても、冷く生きて居れない。」「脱走する気だね。」「でも、あたし、お金がないの。」 三木は、ちらと卑しく笑い、そのまま頭をたれて考えた。ずいぶん大袈裟な永い思案の素振りであった。ふと顔をあげて、「十・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・しかしこの個人主義はエゴ中心的な満足した自我のブルジョワ個人主義ではない。この個人主義は自我の発展の希願の上に立ち、モニュメンタルな我コスミックな我としての自我意識をもつものである。 換言すれば行動的ヒューマニズムにおける個人主義は十七・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫