・・・だの「カツレツ」だのと云う紙札が何枚も貼ってあった。「地玉子、オムレツ」 僕はこう云う紙札に東海道線に近い田舎を感じた。それは麦畑やキャベツ畑の間に電気機関車の通る田舎だった。…… 次の上り列車に乗ったのはもう日暮に近い頃だった・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・それから、ひくくせきばらいしてカツレツの皿をつついたのである。彼のすぐ右側に坐っていた寮生がいちまいの夕刊を彼のほうへのべて寄こした。五六人さきの寮生から順々に手わたしされて来たものらしい。彼はカツレツをゆっくり噛み返しつつ、その夕刊へぼん・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・二杯のスープと二皿のカツレツの為に主婦が半日石油コンロの前に立って居なければならないという必要がどこにあろうか」 モスク夕刊新聞所載 ストローヤの閉店時間 モスクのストローヤが僅にセントルで十二時まであるだけであとは八九時にしめてしまう・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
出典:青空文庫