・・・しかれどもコレラも黴菌病なりしを知り、すこぶる安堵せるもののごとし。 我ら会員は相次いでナポレオン、孔子、ドストエフスキイ、ダアウィン、クレオパトラ、釈迦、デモステネス、ダンテ、千の利休等の心霊の消息を質問したり。しかれどもトック君は不・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・レ、三人ヒシト抱キ合イ、行ク手サダマラズ、ヨロヨロ彷徨、衆人蔑視ノ的タル、誠実、小心、含羞ノ徒、オノレノ百ノ美シサ、一モ言イ得ズ、高円寺ウロウロ、コーヒー飲ンデ明日知レヌ命見ツメ、溜息、他ニ手段ナキ、コレラ一万ノ青年ヲ思エ。貧苦オススメシテ・・・ 太宰治 「創生記」
・・・ 怒りを意味する choler はギリシアの胆汁のコレーから来ているそうで、コレラや gall や yellow なども縁があるそうである。イカリのイが単に発語だと仮定するとこれがやはり似通って来るからおもしろい。ギリシアのカレポス、オ・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・のある、コレラ菌が暴れ廻っていた。 全速力の汽車が向う向いて走り去るように、彼はズンズン細くなった。 ベッドから、食器棚から、凸凹した床から、そこら中を、のたうち廻った。その後には、蝸牛が這いまわった後のように、彼の内臓から吐き出さ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・この船には医者は一人居たがコレラの薬の外に薬はないそうだ。固より病人の手あてなどしてくれる船ではないから、時々カクシの薬を引き出しては独り呑んで見るけれど、血はやはりとまらぬ。もっとも着物は洋服一枚着たきりで日本服などはない、外套も引っかけ・・・ 正岡子規 「病」
・・・ 病気、殊に、恐ろしい「コレラ」と云うものに対しての恐怖、先生が病気の弟子を思う心、 あれは立派な心理描写である。 あれだけ鋭い神経を持って居られたのだから、勿論、恋愛を骨子として書かれたものでも、凄いするどいものがある。 ・・・ 宮本百合子 「紅葉山人と一葉女史」
・・・饑饉が終るとコレラが蔓延し、一揆があちらこちらで起ったが、このとき、怒った大衆の標的とされたのは誰あろう、ともに餓えて疫病と闘った急進的知識人と医者とであった。 このからくりに采配をふるったのは、ツァーの有名な警視総監である大官ポベドノ・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・若い、しっかりした指物師であった父親のマクシムはゴーリキイが五つの時ヴォルガ河を通っている汽船の中でコレラで死んだ。この若い父も当時のロシアの社会に生きる勝気な青年らしい短い物語をもった人であった。 マクシムの父親というのは陸軍将校であ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 五つの時父はコレラで死に、幼いゴーリキイは母と一緒にニージュニへかえって祖父の家で暮すようになったが、この鋭い刺のある緑色の目をもった祖父の家の中の生活の有様は、到着第一日から幼いゴーリキイの心にうずくような嫌悪、恐怖、好奇心を湧き立・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・それを知らずにリュシアンはかわって反感をもたれてる〔欄外に〕 マクシミリアン・ラマルク 1770―1832 はナポレオン帝政時代の名将軍 七月帝政時代にも反対派代議士として有名 コレラで死 葬式が暴動のキッカケとなった ジャンヌ一揆・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
出典:青空文庫