・・・ 現代の教養を体にいっぱいにしたその若いひとは、勿論自分が一種のコンプリメントとして云った言葉でそんなに強烈なショックを感じる作家が今日に在ろうとは思いもしていなかったのである。おはぎでも拵えるように、一寸いたずらしてと表現する娘さ・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・この一二年来、日本の大衆の日常生活と生活感情とは、少なからずショックを受けるような出来事があった。経済的に、軍需工業関係者以外の一般人は、物価騰貴のため急速に貧困化している。文化的の面にもその貧困は響いて来ていると同時に、大衆の文化的内容そ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 雷のひどくなる晩、*を見て居て、ひどくショックを受けたのだと云う。 けれども、先妻の死んだ部屋だというのだから、まだ年の若い其女は何か迷信から、そんなになってしまったのではあるまいか? 只さえ人気ない夜陰の物さびしさが、此の急・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・母はショックをうけ、とりみだしていたようだった。お化けはないもの、迷信はばかげたもの、と占いやまじないの話に子供の興味がひきつけられないようにしている母だのに、この白い鳩が座敷へ迷いこんで来て、偶然、神棚へとまって二三度羽ばたきし出て行った・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・けれども、正直に云えば、此心持は、僕にどれ程深いショックを与えたか、解らないのじゃあないかと思う。 僕は、実際、長く別れて居た自分の親類の者よりは国男さんでも英男さんでも可愛いく思って居る。出来る丈行きもし、皆と一緒に楽しみたい。其を、・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・その夜妻が姙娠しているときかされて、新鮮なショックを感じる。「そのとき彼の耳は既に、医者の耳でなく父親の耳であり、人間の耳であったのだ。彼は長い間の難解な問題が思わずここに釈然とした思いがした」ところが、この作品のヒューマニズムの帰結なので・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
三月十五日に発行された文学新聞に、無名戦士の墓へ合葬された人々の氏名が発表されていた。そのなかに、譲原昌子という名をみたとき、わたしははげしいショックをうけた。今年の一月十二日に亡くなられたと書いてある。一人の家族もなくて・・・ 宮本百合子 「譲原昌子さんについて」
・・・批判は、若いひとたちにめざめてゆく、理性の成長の幅に応じてまだ、狭い、しかし、同時にまじりけなくて、日々の営みの大変さにおされがちなため、いつの間にか惰性で生きているおとなにとって、虚をつかれたというショックに似た感情を与える。おとなが、若・・・ 宮本百合子 「若い人たちの意志」
・・・ところがその人が不用意の間に発した一言が、私には霹靂のようなショックを与えました。かえって事態は、まるで逆転してしまいました。私は思わずはっとし、まるで異なった角度から、驚いて我というものを眺めなおし得たのです。 私は更生といってよいほ・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫