・・・しかしこういう議論は映画理論家にとって、また特にソビエトの国是の上から重要かもしれないが、一般映画観賞者の立場からは、たいした意義をもたない事である。われわれにとってはその映画がおもしろいことが第一義である。八巻なり十巻なりの映写を退屈する・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・同じ意味でソビエト映画「トルクシヴ」に現われる紡績機械もおもしろい。そうして「自然の破壊」における大仕掛けの機械架構が、どうも物足りなく思われるのである。「トルクシヴ」もかなりおもしろいと思って見物した。いわゆるモンタージュの芸当をあま・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 日本映画人がかつてソビエト露国から俳諧的モンタージュの逆輸入を企て一時それに熱中したのはすでに周知の事実なのである。二 ロバータ 前に見た「コンチネンタル」と同じく芸人フレッド・アステーアとジンジャー・ロジャースとの舞・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(※[#ローマ数字7、1-13-27])」
・・・ 四 映画批評について このごろはそれほどでもないがひところはソビエト映画だとなんでもかでもほめちぎり、そうでない映画は全部めちゃくちゃにけなしつけるというふうの批評家があった。しかしそういう批評をいくら読んでみても・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ 話は変わるが先日銀座伊東屋の六階に開催されたソビエトロシア印刷芸術展覧会というのをのぞいて見た。かの国の有名な画廊にある名画の複製や、アラビアンナイトとデカメロンの豪華版や、愛書家の涎を流しそうな、芸術のための芸術と思われる書物が並ん・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・氷海の無辜の住民たる白熊に対してはソビエト探険隊員は残虐なる暴君として血と生命との搾取者としてスクリーンの上に映写されるのである。 白熊がもしもチンパンジーであったら、この映画の観客に与える情緒は少しちがうであろう。チンパンジーの代わり・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ 十二 一と頃、学生の観客の多い映画館で、ニュース映画の中にたまたまソビエトの赤旗の行列などがスクリーンに現われると、観客席の暗闇から盛んな拍手が起るのであった。ことによると、自分の中にもどこかに隠れているら・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
・・・大神宮のすぐ下にソビエト領事館がある。これも面白い事実である。門の鉄扉の外側に子守が二、三人立って門内の露人の幼児と何か言葉のやりとりをしていると、玄関から逞しいロシア婦人が出て来て、逞しいむき出しの腕でその幼児を軽々と引っかかえて引込んで・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ よくは知らないが現在のソビエト・ロシアの国是にも科学的産業興振策がかなり重要な因子として認められているらしい。たとえば飛行機だけ見てもなかなかばかにならない進歩を遂げているようである。おそらくロシアでは日本などとちがって科学がかなりま・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・地形の複雑さは大農法を拒絶させ田畑の輪郭を曲線化し、その高低の水準を細かな段階に刻んでいる。ソビエトロシアの映画監督が「日本」のフィルムを撮って露都で公開したとき、猫の額のような稲田の小区画に割拠して働く農夫の仕事を見て観衆がふき出して笑っ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
出典:青空文庫