・・・で示したニュアンスにとみ曲折におどろかない豊潤な資質は、その後の諸論集のなかでどのように展開されただろうかという問題である。 片上伸研究が「過渡期の道標」と題されたことは、示唆的である。著者は、芥川龍之介の敗北の究明とともに、小市民的土・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・たとえば帽子の型のある奇抜な面白味というようなものは、それを頂いている顔に漲っている知的な趣、体のこなし全体に溢れる女としての複雑な生活的な勁さ、ニュアンスなどとあいまって美しさとなるのだから、体の生活的感覚はそういうものからずっとおくれて・・・ 宮本百合子 「新しい美をつくる心」
・・・しかし私としては非常に、わずかのことしか知っていませんので、至極ぼんやりと、一九二九年以後アメリカの繁栄が蒙った変化につれて変化した文学、次第に成長し、ヨーロッパの良質な人をどんどんうけ入れてニュアンスを深めて来る「アメリカの明るさ」がどん・・・ 宮本百合子 「アメリカ我観」
・・・ そういう意味で、一九四五年以後日本の若い精神をとらえた自我自意識の問題は、日本の悲劇として独特のニュアンスをもった。「チボー家の人々」のジャックはそのときまでには次第に確立しかかっていた人間性、よりひろくより総合された社会的理解、理性・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・こうしてみると、あたまのよさにもまた、おのずから沢山の性格と結びついたニュアンスがあって、面白いものだと思う。「青髯八人目の妻」でコルベールがいう一寸した科白を、ある日本の作家が女性の洗練された話術の感覚の見本としてほめていたが、果してそれ・・・ 宮本百合子 「映画女優の知性」
・・・ロマンティックな要素、そしてその反面に根をはっている封建風なもの、この両者はそれぞれ独自なニュアンスをなして、云わばこの卓抜な二人の作家の正直さ、善良さ、真摯さの故に矛盾をも明かに示しつつ、生涯の実生活と作品とを綾どっている。 今日の日・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・民族のさまざまな特質やその特質を更に個性のニュアンスで音楽にうちこめている作品の再現としての演奏が、純粋に音の領域から入ってその精髄にふれてゆくことも、いろいろと考えさせて感興ふかかった。 音楽にも民族の性格が顕著なのは自然だが、その自・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・友代の方言がうまいというばかりでなく心もちのニュアンスをつたえる表現としてこなされていたのは心持よいことであった。 そして、友代の成功であの芝居が真情的なものに貫かれていたとも云えそうなところに脚本としていろいろ興味ある問題がひそんでい・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・ こんにち、文壇の作家たちが、めいめいの特色となっている角度やニュアンスを失うまいとしながら社会の現実観と自己の創作方法との間に生じている悲劇的な裂けめにはさまって苦闘しているばかりではない。現代文学のその裂けめから、おびただしい土砂崩・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・只人間生活の歓び確信というものの、最も鋭い、最もニュアンスに富んだ、最も出来合いでないものの感じ得る陰翳――それによって明暗が益生彩を放つところの、動く生命力の発露として、苦痛をも亦愛し得るだけ生活的です。私があなたにあげる手紙の中で、我々・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫