・・・それでもしわれわれにジョン・バンヤンの精神がありますならば、すなわちわれわれが他人から聞いたつまらない説を伝えるのでなく、自分の拵った神学説を伝えるでなくして、私はこう感じた、私はこう苦しんだ、私はこう喜んだ、ということを書くならば、世間の・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・川向うの蘆洲からバン鴨が立って低く飛んだ。 少年はと見ると、干極と異なって来た水の調子の変化に、些細の板沈子と折箸の浮子とでは、うまく安定が取れないので、時竿を挙げては鉤を打返している。それは座を易えたためではないのであるが、そう思って・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・ソノイドノ水ガイチバンツメタイノ。君チャンノオ母ッチャハ、ナンデ今フユデナイカト云ッテ、泣イテバカリ居タノ。 オ父ッチャモ泣イテルノ。ムネイタイノ、ト君チャンガキクト、イヤト頭ヲフルノ。アトニナッテ、又ムネイタイノ、トキクト、ダマッテ目・・・ 小林多喜二 「テガミ」
・・・ 六 バンジャ 映画「バンジャ」を見た。従来の猛獣映画に比べて多少の特色はあるようである。見えすいた芝居が比較的少ないので、見ていて気持ちがよく、退屈しなくてすむ。 象が人間に使われて実によく命令を聞き、見か・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・この点においてこの映画の創作者ルーバン・マムーリアンは一つの道楽をしてひとりで悦に入っている感がある。しかしまた一面においては常設館の常顧客であるところの大衆の期待に応ずるような手ごろの材料をかなりに盛りだくさんにあんばいすることに骨を折っ・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・ところが、その三原山行きの糧食としてN先生が青木堂で買って持って行ったバン・フーテンのココア、それからプチ・ポアの罐詰やコーンド・ビーフのことを思い出したので、やっとそれが明治四十二年すなわち自分の外国留学よりは以前のことであって帰朝後では・・・ 寺田寅彦 「詩と官能」
・・・ 肉桂の根を束ねて赤い紙のバンドで巻いたものがあった。それを買ってもらってしゃぶったものである。チューインガムよりは刺激のある辛くて甘い特別な香味をもったものである。それから肉桂酒と称するが実は酒でもなんでもない肉桂汁に紅で色をつけたの・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ハインリヒ・クライの怪奇画からは文明の背後に隠れた災厄の悪魔の呼吸を感じさせられる。バンベリーの「新兵」の絵を見ていれば可笑しいよりは泣きたくなる。ジャン・ヴェヴェーの「銭投げ」を見れば感情と姿勢の対訳を教えられる。そしてそれらは単に見る人・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・ 二人の士官が、ともへ帰ると、ボースンとナンバンとが呼ばれた。 彼等は行った。 船長は、横柄に収まりかえっていられる筈の、船長室にはいなくて、サロンデッキにいた。 ボースンとナンバンとが、サロンデッキに現れるや否や、彼は遠方・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・○図書館 ○往来、 插話は此処へ入る。 ――○――○レークジョージ ○メゾン ファシール、 ○チョプスイ。○アムステルダム ○岩本さんのところ。○バン コートランド。 ○オペラ。 ○芝居。 ○西村さんのところ・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
出典:青空文庫