・・・六連発のピストルさ。ドーン、グララアガア、ドーン、グララアガア、ドーン、グララアガア、ところが弾丸は通らない。牙にあたればはねかえる。一疋なぞは斯う言った。「なかなかこいつはうるさいねえ。ぱちぱち顔へあたるんだ。」 オツベルはいつか・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・(特務曹長ピストルを擬し将(バナナン大将この時まで瞑目したるも忽ちにして立ちあがり叫大将「止まれ、やめぃ。」(特務曹長ピストルを擬したるまま呆然として佇立す。大将ピストルを奪バナナン大将「もうわかった・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・現象はみな善である、私が牛を食う、摂理で善である、私が怒ってマットン博士をなぐる、摂理で善である、なぜならこれは現象で摂理の中のでき事で神のみ旨は測るべからざる哉と、斯うなる、私が諸君にピストルを向けて諸君の帰国の旅費をみんな巻きあげる、大・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・さあ、ピストルか刀かどっちかを撰べ。」 するとデストゥパーゴはいきなり酒をがぶっと呑みました。 ああファゼーロで大丈夫だ。こいつはよほど弱いんだ。 わたくしは心のなかで、そっとわらいました。 はたしてデストゥパーゴは空っぽな・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・それから新聞で御覧のとおり、非常に今の警官はピストルが上手で殺すことがうまく、昔の警官はサーベルをがちゃがちゃさせて躓いてびっくりしていたが、いまは殺すことが実に上手である。日本の警官はイギリスのストックヤードの警官のように足を掬って自由を・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・ 赤布を平服の腕へ巻つけた労働者赤衛兵はピストルを片手に、冬宮を引揚げる時全同志の身体検査をした。ポケットに入れられたものはどんな小さいものもとり上げそれを記入した。そべてそれらは、プロレタリア革命の名誉のためになされたのである。 ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・二日三日の夜には、皆気が立ち、町内の有志が抜刀で、ピストルを持ち、歩いた。四日頃からそのような武器を持つことはとめられ、みな樫の棍棒を持つことになった。 やりをかつぎ、闇からぬきみをつき出されたりした。 ◎野沢さんの空屋の部屋で、何・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・腰にピストルをつけ、カウボーイと馬に騎り、小学生のときからひとの台処で働かねばならなかったアグネスの強壮な体の中を奔放に流れている熱い血がある。一方に子供時代の境遇からアグネスは母親にさえ自分の愛情というものを言葉に出して語る習慣がない。野・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・病舎では、一疋の蠅は一挺のピストルに等しく恐怖すべき敵であった。院内の窓という窓には尽く金網が張られ出した。金槌の音は三日間患者たちの安静を妨害した。一日の混乱は半カ月の静養を破壊する。患者たちの体温表は狂い出した。 しかし、この肺臓と・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・先日も優秀な技師がピストルでやられました。それは優秀な人でしたがね。一度横須賀に来てみて下さい。僕らの工場をお見せしますから。」「いや、そんな所を見せて貰っても、僕には分らないし、知らない方がいいですよ。あなたにこれでお訊ねしたいことが・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫