・・・彼は『ファウスト』においてそのしからざる真面目を呈露している。従って彼の自由な、余裕ある、落ちついた鑑賞の態度は、彼の「人」としての大いさから出ているのである。ここに木下がこの師からさらに深く学ぶべきものがある。そうして自分の木下に対する友・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
・・・文学でも『イリアス』が戦争の詩である事は言うまでもなく、ダンテの『神曲』は十字軍から百年戦争までの間の暗い時代にダンテ自身の戦争経験をも含めて造られ、ゲエテの『ファウスト』は仏国大革命の時代をその製作期として持っている。これらは戦争の刺激に・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・従ってこのメフィストはファウストを持っていないのである。そうしてまた、ショオ自身の内にも、ファウストは全然いないらしい。彼は善の塊のように、自己を築きおわった人のように、安固として動かない。彼は自己鍛錬の苦しい道を経ないで、社会救済の自信と・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫