・・・トンミイ、フレンチ君が、糊の附いた襟が指に障るので顫えながら、嵌まりにくいシャツの扣鈕を嵌めていると、あっちの方から、鈍い心配気な人声と、ちゃらちゃらという食器の触れ合う音とが聞える。「あなた、珈琲が出来ました。もう五時です。」こう云う・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・それからフレンチペーストをたべる。二月 一〇日 始めて河を越してパリセードに行く。高垣氏と共に。二月 十三日 誕生日、皮の袋、岩本さんと三人で若松へ行く。下の Whittier のホールでは、支那人のミーティングがあった。此日のAの・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・ 傍の客室に案内された。手套をとり乍ら室内を見廻し、私はひとりでに一種の微笑が湧くのを感じた。長崎とは、まあ何と古風な開化の町! フレンチ・ドアを背にして置かれた長椅子は、鄙びた紅天鵝絨張り、よく涙香訳何々奇談などと云った小説の插画にある通・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・のんびりした音律のフレンチのしなやかな音調のうたは感じやすい女の心から涙をにじませるには十分すぎて居た。男の肩に頭をおっつけて目をつぶって女は夢を見かけて居た。「私達は人並じゃなくしましょうよ」 女はフイとこんな事を云い出した。・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫