・・・花田 俺たちは力を協せて、九頭竜という悪ブローカーおよび堂脇という似而非美術保護者の金嚢から能うかぎりの罰金を支払わせることを誓う。一同 誓う。花田 そのためには日ごろの馬鹿正直をなげうって、巧みに権謀術数を用うることを誓・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・夜の八時ごろ、ほろ酔いのブローカーに連れられて、東京駅から日本橋、それから京橋へ出て銀座を歩き新橋まで、その間、ただもうまっくらで、深い森の中を歩いているような気持で人ひとり通らないのはもちろん、路を横切る猫の子一匹も見当りませんでした。お・・・ 太宰治 「貨幣」
・・・第一、ぼくが全く無意義な存在であること、例え、マルクスが商事会社――ブローカー――広告業――外交販売員が社会にとって有害であると説かぬにしろ、ぼくは自分の商売が憎らしいのに決っています。曾つて、主任から、個性を殺せと説教されました。そうして・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 戦後の出版界の空さわぎは、出版社というものが、つまりはブローカー的存在であって、自分が何一つ生産手段をもってなくても、当る原稿をとることさえ成功すれば、相当の利ざやを掠めとることが出来たからである。戦時中、大軍需会社の下うけをやってい・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・青森の大金持の男、信者、娘一人、後とりの後見もして欲しいから学問があって、人物の出来た人、 そこで、結婚ブローカーがあって、「それじゃいい人がありますっていうんですね、司教の息子それじゃ立派なもんだろうって云うんで先は承諾。親父は職・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・企業整備という名でいわれたその淘汰は、喘ぎながらも便乗していた街の小工場、小ブローカーをつぶして、より大きい設備と資本に整備した。戦争が進むにつれ、規模が大きくなるにつれ、戦争で直接儲けている日本の資本形態は、より大資本の形にすすみ、そのこ・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・その結果工場の資材を持出して売ること、そういうもののブローカーをすること、盗んだ資材で、例えばラジオを組立てたり、時計を一寸修繕したりして、それで又金を儲けること、窃盗や詐欺が大変に殖え始めた。世間の注目はこのようにして始まった青少年の生活・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・民主的とは民主性そのものを毒す保守の特権や政治ブローカーと、目前の便宜から妥協したりすることではない。民主の方向は、歴史の発展から導き出されたそれ自身の誇りある性格に立っているのである。『婦人民主』の特色は、婦人をくいものにするすべての・・・ 宮本百合子 「われらの小さな“婦人民主”」
出典:青空文庫