・・・希臘語を解しプレートーを読んで一代の碩学アスカムをして舌を捲かしめたる逸事は、この詩趣ある人物を想見するの好材料として何人の脳裏にも保存せらるるであろう。余はジェーンの名の前に立留ったぎり動かない。動かないと云うよりむしろ動けない。空想の幕・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・そこは芸術家の多く住む気取った一区画として知られていますが、そこの若い人々が出している『プレー・ボーイ』という同人雑誌などは、あちらの新らしい、先へ先へ行こうとする所謂「若い芸術家の群」の気分を示していると思います。詩、絵、短篇小説類を集め・・・ 宮本百合子 「アメリカ文士気質」
・・・ ケーニヒスベルクの町を流れるプレーゲル河に沿う広い家で、幼い娘ケーテは兄と一緒に育った。重く荷を積んで、暗い煉瓦船が河を辷って行く。ケーテの幼い心に印象づけられた最初のリズミカルな生活の姿はその船の情景であった。屋敷のなかの二つの空地・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ see. New Y. Times. Sep. 15, 1923 Anton Lang と云う男 キリストに似たような顔と体、とくに肩つきに似て居ると云うので Passion Play のクリスになる。 その顔の類似が精神に及ぼす・・・ 宮本百合子 「一九二三年夏」
・・・彼女が、もしプレーゲル河の河港に働く正直な人々の生活に何の同感ももち得ない娘であったならば、どこに後年の親愛な畏敬すべきケーテが存在したろう。何の動機で、心のすがすがしい若い医師カール・コルヴィッツと結婚出来たろう。彼女は画家たる前に、先ず・・・ 宮本百合子 「まえがき(『真実に生きた女性たち』)」
出典:青空文庫