・・・軽井沢に避暑中のアメリカ富豪エドワアド・バアクレエ氏の夫人はペルシア産の猫を寵愛している。すると最近同氏の別荘へ七尺余りの大蛇が現れ、ヴェランダにいる猫を呑もうとした。そこへ見慣れぬ黒犬が一匹、突然猫を救いに駈けつけ、二十分に亘る奮闘の後、・・・ 芥川竜之介 「白」
・・・アレキサンダーがペルシアの女との恋愛のために遠征を忘れ、スピノーザが性的孤独のために思索を怠り、ダヌンチオがフューメの女を恋するあまり戦いを捨てるようなことがあったとしたら、われわれは彼らのためにそれを惜しまずにはおられないであろう。 ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・であり、従ってまた英の angle とも関係しているらしい。ペルシアでは lngar である。サンスクリトの lngala は鋤であるがしかし錨のような意味もあるらしい。同時に membrum virile の意味もある。ロシアの錨はヤーコ・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・ また考え直してみると日本という国は不思議な国であって古い昔から幾度となく朝鮮や支那やペルシアやインドや、それからおそらくはヘブライやアラビアやギリシアの色々の文化が色々の形のチューインガムとなって輸入され流行したらしいのであるが、それ・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・ 蘭領インドの島にシグムバワという笛があり。サモアにシヴァオフェという竹笛がある。 ペルシアのした笛にシャクというのがある。またラッパ、むしろトロンボンの類でシャグバットサクビュトサカブケなども事によると何か縁があるかもしれない。・・・ 寺田寅彦 「日本楽器の名称」
・・・古代ペルシアの英雄ルスタムとその息子との悲劇の、謂わば古風なものがたりであり、文体もそういう古風な絵の趣を保とうとされている。そして、作品の人物にあらわされている風俗のあらましは、古代のミニェチュアや文献をしらべてかかれた。 作者の作品・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・わたしも、それまでをことわる心持がなくていたとき、不図したはずみで、一冊のペルシア美術に関する本を見る機会があった。ライプツィッヒで出版されたその本には、古代ペルシアの美しいタイルの色刷りや小画の原色版がどっさり入っていた。そのミニェチュア・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・へ行って油田を見せて貰えるつもりでいたところが、生憎その日はペルシアの日曜日――何かの宗教的祝日で、大通りの商店、事務所、すっかり表戸をおろしているのであった。 仕方がないから、自分たちは目抜の通りへ出て地図を買い、通行人に交って街をぶ・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ Aは健康で、女子学習院、明治、慶応に教え、岩波書店から、彼の最初の著述、「ペルシア文学史考」が出版されそうになって居る。 自分は、正月の太陽の為に南路を書き、日曜や今日のようにAが家に居、机を並べてやって居る時には、此を書いたり、・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・造形美術ではペルシア戦争後のアテナイの諸傑作などがその最も著しい例である。文学でも『イリアス』が戦争の詩である事は言うまでもなく、ダンテの『神曲』は十字軍から百年戦争までの間の暗い時代にダンテ自身の戦争経験をも含めて造られ、ゲエテの『ファウ・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫