・・・日本にのこっている封建的感情は、ハイ・ボールの一杯機嫌で気焔をあげるにしても、すぐ生殺与奪の権をほしいままに握った気分になるところが、いかにもおそろしいことである。この種の人々は、どこの国の言葉が喋れるにしろ、それは常に人間の言葉でなければ・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・破れる、と思わず瞬間ぎょっとしあわてて避けたはずみに見ると、それは水瓜ではなく、子供の遊戯に使う大きな赤革のボールであった。赤い皮の水瓜などない筈だが、この頃どの店先でも沢山水瓜を見、自分達で食べもするので夏らしい錯誤を起した。笑って歩いて・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・奥の空室で年かさのピオニェール少女が二人、色紙を切りぬいてボールへはりつけ、何か飾ものをこしらえていた。 ――モスクワは御承知の住宅難で、多くの子供は学校が退けてから落付いているところがないんです。親は留守だし。みんなここへ来ます。ここ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ “How many glorious things there are on this round ball, things which smile at you, And taste sweet. Life is good, by ・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・の中にがらくた中学として有名だった郁文館の中学生のボール悪戯が描かれているのを知らぬものはない。「三四郎」には、明治四十年代の団子坂名物であった菊人形のこともあるし、田端と本郷台との間の田圃のあたりも描かれている。 後年渡辺治衛門という・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ 最初のボール箱が開かれた。中から、緑だけの眼鏡が出た。サーシャはそれをかけ、キットした様子でゴーリキイを見ながら云った。「球がなくったって一向平気だ。これは、こういう眼鏡なんだから!」 ゴーリキイがたのんだ。「どれ、俺にも・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・の若い男女の連中がシャツ一枚になって新しい遊び場を早速利用しボールをやって遊んでいる。子供の笑い声、青年たちの笑声。秋空が澄んで、大きい菩提樹の梢が気持いい日光の下で黄ばみかけている。 この頃のモスクワと来たら、一ヵ月も見ないともういつ・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・手相占の本もある。ボール札が紐でつる下っている。 諸君ノ図書館ヲ利用セヨ。 古本屋は東端でイギリス痛風だ。震えた字だ。 屋根にトタン板を並べた鋳鉄工作所から黒い汚水と馬糞が一緒くたに流れ出して歩道の凹みにたまっている。 内・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫