・・・僕のポッケットの中からは、見る見るマーブル球(今のビー球や鉛のメンコなどと一緒に二つの絵具のかたまりが掴み出されてしまいました。「それ見ろ」といわんばかりの顔をして子供達は憎らしそうに僕の顔を睨みつけました。僕の体はひとりでにぶるぶる震えて・・・ 有島武郎 「一房の葡萄」
・・・、花火、水中で花の咲く造花、水鉄砲、水で書く万年筆、何でもひっつく万能水糊、猿又の紐通し、日光写真、白髪染め、奥州名物孫太郎虫、迷子札、銭亀、金魚、二十日鼠、豆板、しょうが飴、なめているうちに色の変るマーブル、粘土細工、積木細工、豆電気をつ・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・そういうときに、清らかに明るい喫茶店にはいって、暖かいストーブのそばのマーブルのテーブルを前に腰かけてすする熱いコーヒーは、そういう夢幻的の空想を発酵させるに適したものである。 中学校で教わったナショナルリーダーの「マッチ売りの娘」の幻・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・やはり人造でもマーブルか、乳色ガラスのテーブルの上に銀器が光っていて、一輪のカーネーションでもにおっていて、そうしてビュッフェにも銀とガラスが星空のようにきらめき、夏なら電扇が頭上にうなり、冬ならストーヴがほのかにほてっていなければ正常のコ・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・ やさしい思いやりのある声でさとして、殿はマーブルのようにかたくしまった女のかおをのぞき込んだ。「私はあの人の可愛らしい霊がしずかにやすまって居られる様にしなくてはならないのだからネ、私はこれから池に行って見るから……」 悲しい・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・美くしい形にきられたストーブには富と幸福を祝うように盛に火がもえて居ます。マーブルのような女の美くしい頬にてりそってチラチラして居ます。女「寒かったでしょう、早くあったかくなってそして人の世の話をきかせてちょうだい」 女はぬれたみど・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫