・・・私はちっとも飛躍なんかしてはいないのよ。ただ子供たちと一緒に大きくなってここまで来たんですよ。私はリアリストとして、自分のまわりを眺めつつここまで来たのだ、つまり、あなたとしては、現実があなたに「若い息子」を書かしめたのであるという感想であ・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・京都人は男も女もリアリストと思う。〔一九二六年六月〕 宮本百合子 「京都人の生活」
・・・シャウフェルは、リアリストとしてケーテの生涯のために重要な基礎を与えた教師の一人であったと考えられる。 生きたモデルについて熱心な研究を続ける一方、若いケーテがこのベルリン時代にドイツのシムボリズムの画家として、その構想の奇抜なことや、・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・人も知る天皇主義者である林房雄は、宇野浩二というその人なりのリアリストが、その人なりのリアリズムで天皇とその周囲の雰囲気をなみの人間の目やすから観察し、描き出したのを、文学のために生活そのものをたねにする私小説作家気質と罵った。吉田健一の「・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・バルザックが、今日いう意味ではリアリストでなかったのだし、彼のロマンチシズムがその時代の必然によって、リアリズムを既に内包していたこと、その二つの矛盾が作品のすべてに実に顕著に顕れていること、従って、林氏亀井氏保田与重郎氏の云う日本ロマン派・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・しかも、今日を明日へ押しすすめるべき未熟な、酸苦くはあるがそれが核であることだけは確であった世界観のよりどころを、自分の手で文学から追放してしまった人々は、自嘲的になった自己の内部に十九世紀のリアリストたちの情熱すら抱き得ない有様である。・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・人間というものが本格的にリアリストであり、芸術の根蔕がリアリズムであるからには、作家として現実を真にその活き動く関係のままに把握しうる眼としての世界観、史的唯物論に立つ現実のみかたと、そこからのリアリズムを求めるのである。 現実を、その・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・慶子という少女の青春の美をめぐって軽井沢風景の間に描かれる作者の幻想の世界から、最後に作者自身が飛び出し、「信念のないロマンチストは皆ファンティジストに過ぎず、信念のないリアリストは皆センチメンタリストに過ぎぬ」と結び、それによって逆効果を・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・は、婦人の一生をみる点で紫式部がリアリストであったということを証明している。当時の貴族社会の男の典型として紫式部は光君を書こうとした。今日からみれば、とりとめない放縦な感情生活のなかにも、なお失われない人間性というものがありたいということを・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・このことは、ただ彼が成功した一人の素人作家であって、十九世紀ロシアのリアリスト劇作家オストロフスキーと、輝やかしい同姓異人であるということだけではない。除村吉太郎氏の紹介に記されているソヴェト同盟の第一次五ヵ年計画達成以後の文学的年代は、そ・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫