・・・入口の石の鳥居の左に、とりわけ暗く聳えた杉の下に、形はつい通りでありますが、雪難之碑と刻んだ、一基の石碑が見えました。 雪の難――荷担夫、郵便配達の人たち、その昔は数多の旅客も――これからさしかかって越えようとする峠路で、しばしば命を殞・・・ 泉鏡花 「雪霊記事」
・・・ と一基の石塔の前に立並んだ、双方、膝の隠れるほど草深い。 実際、この卵塔場は荒れていた。三方崩れかかった窪地の、どこが境というほどの杭一つあるのでなく、折朽ちた古卒都婆は、黍殻同然に薙伏して、薄暗いと白骨に紛れよう。石碑も、石塔も・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ いま辻町は、蒼然として苔蒸した一基の石碑を片手で抱いて――いや、抱くなどというのは憚かろう――霜より冷くっても、千五百石の女じょうろうの、石の躯ともいうべきものに手を添えているのである。ただし、その上に、沈んだ藤色のお米の羽織が袖・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・ 本基 第一基 第二基 第三基 攫者の位置 投者の位置 短遮の位置 第一基人の位置 第二基人の位置 第三基人の位置 場右の位置 場中の位置 場左の位置○ベースボールの勝負 攻者・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・汲出櫓の上に登っているのであるが、右手を見ると、粗末な石垣のすぐそこから曇天と風とで荒々しく濁ったカスピ海がひろがり、海の中へも一基、二基、三基と汲出櫓が列をなしてのり込んで行っている。 風と海のざわめきとの間にも微かなキューキューいう・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
出典:青空文庫