・・・ いい方がだいぶ混乱したが、一括すれば、今までの詩人のように直接詩と関係のない事物に対しては、興味も熱心も希望ももっていない――餓えたる犬の食を求むるごとくにただただ詩を求め探している詩人は極力排斥すべきである。意志薄弱なる空想家、自己・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・当時、戯作者といえば一括して軽薄放漫なるがいがいしゃ流として顰蹙された中に単り馬琴が重視されたは学問淵源があるを信ぜられていたからである。 私が幼時から親しんでいた『八犬伝』というは即ちこの外曾祖父から伝えられたものだ。出版の都度々々書・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・まずい名称であるがかりにこれらを人工映画という名前で一括することにする。 これらの人工映画のもつ特徴は、これらの単純なる影や線のリズミカルな活動によってそこに全く特別な新しい世界を創造するという可能性の中に存する。シルエットの世界には遠・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ニュートンが一見捕捉しがたいような天体の運動も簡単な重力の方則によって整然たる系統の下に一括される事を知った時には、実際ヴォルテーアの謳ったように、神の声と共に渾沌は消え、闇の中に隠れた自然の奥底はその帷帳を開かれて、玲瓏たる天界が目前に現・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・啻に『金色夜叉』のみならず紅葉先生の著作は、明治三十四、五年の頃友人に勧められて一括してこれを通読する日まで、わたくしは殆どこれを知らずにいた位である。これも別に確然たる意見があったわけではない。その頃の書生は新刊の小説や雑誌を購読するほど・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・過去の批評を一括してその変遷を知らねばならぬ。したがって上下数千年に渉って抽象的の工夫を費やさねばならぬ。右から見ている人と左から眺めている人との関係を同じ平面にあつめて比較せねばならぬ。昔しの人の述作した精神と、今の人の支配を受くる潮流と・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・ 社会のある特殊な時代が今日のような形をとって来ると、女の職業的な進出や、生産へ労働力として参加する数や質のひろがりに逆比例して、女らしい躾みだとか慎しさとか従順さとかが、一括した女らしさという表現でいっそう女につよく求められて来ている・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・ さながら文学青年によって今日の作家は害されているようにいわれているが、文学青年と一括されて語られている若い人々としてみれば、そもそも俺たちを産んだのは誰だと、ききかえしたいものもあるであろうとも思われる。なぜなら、きのうまで、文学・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・日本の婦人作家は、自身の文学の成長の過程で、旧来、女子供と一括されて来ていたその社会のしきたりをかえて、女と子供とは二つの別のものであってそれぞれに自立した生活の内容をもって、社会にかかわりあってゆくものである事実を明瞭にしようとする時期を・・・ 宮本百合子 「子供のためには」
・・・と、一括した青年群として呼びかけられ、一括した精神と行動との必要に向って注目することを求められている。そして、その声は大変大きくつよく響いているのだけれど、現実には、この間、『都新聞』に詩人の萩原朔太郎氏の書いていられたような青年の無気力と・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
出典:青空文庫