・・・「小田のようなのは、つまり悪疾患者見たいなもので、それもある篤志な医師などに取っては多少の興味ある活物であるかも知れないが、吾々健全な一般人に取っては、寧ろ有害無益の人間なのだ。そんな人間の存在を助けているということは、社会生活という上から・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・それで学生や学者に対してのみならず、一般人の知識慾を満足させる事を煩わしく思わない。例えば労働者の集団に対しても、分りやすい講演をやって聞かせるとある。そんな風であるから、ともかくも彼が教育という事に無関心な仙人肌でない事は想像される。・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・これに反して大多数の政党員ないし政治に興味をもつ一般人、それからまじめな商業や産業に従事している人たちにとってたとえば仏国の大統領が代わったとかニューヨークの株が下がったとか、あるいは北海道で首相が演説したとか議会で甲某が乙某とどんなけんか・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・同時に、既に十分の技術をもっている作家が、刻々に推移してしかも一般人の生活の歴史に重大な関係をもつ社会事相に敏速に応じ、それを正当な方向において、歴史の意味するところを報告し、より正確で深い人間性に迄ふれて一般人に各自のおかれている現実関係・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・常識では、災難と思えるところに、摘発の専門家の手にかかると、法律上犯罪となる条件が見出され得るということは、一般人の信頼を、安らかさに置くよりも、気味わるく思わせる。 もとより悪質な諸犯罪、殺人、お家騒動のからくりに対しては、十分専門家・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
近頃、一部の作家たちの間に、日本の作者はもっと「大人の文学」をつくるようにならなければならない、という提唱がなされている。この頃一般人の興味関心は文学から離れつつある。その理由を、今日の作家は文学青年の趣向に追随して、その作品の中で人・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・いつからか一般人の知識にこんな文句が入り込んで、その固定観念で自繩自縛に陥っている、そんな気がした。所有欲は本能だというのも同じだ。 七月○日 月曜日 暑し。 Yの発起で芝浦のお台場を見物に行く。芝浦から日覆いをかけた発動和・・・ 宮本百合子 「狐の姐さん」
・・・一人の見栄坊な婦人がどうこうということで解決のつくことではないことは、複雑な今日の片よった景気の派生物である事件の弁明に際して、その夫人の虚栄心云々が余り強調せられる結果、却って当然の推理となって一般人の常識に反映しているのである。 就・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・ほとんど倍額に近いこの予算総額は、最近における日本のインフレーションのすくいがたい悪化を物語っており、同時に一般人民の極度な経済的困窮を示している。あらゆる形で大衆課税がとりたてられ、たとえ所得税の税率がいくらか引き下げられたとしても、汽車・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・ 一般人の生活について云えば、生活は物質的にも精神的にも苦難多き時代に面している。最もたくさん小説をよむ青年男女の心の内奥に立ち入ってみれば、今日の若い人々の心は決して四年前の若い人たちの心のままの色合いではない。人生は、複雑極るその切・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
出典:青空文庫