・・・またそれよりも、真珠の首飾見たようなものを、ちょっと、脇の下へずらして、乳首をかくした膚を、お望みの方は、文政壬辰新板、柳亭種彦作、歌川国貞画――奇妙頂礼地蔵の道行――を、ご一覧になるがいい。 通り一遍の客ではなく、梅水の馴染で、昔から・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・泰山前に頽るるともビクともしない大西郷どんさえも評判に釣込まれてワザワザ見物に来て、大に感服して「万国一覧」という大字の扁額を揮ってくれた。こういう大官や名家の折紙が附いたので益々人気を湧かして、浅草の西洋覗眼鏡を見ないものは文明開化人でな・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ああ、これから天国のお庭の梨の実を盗んで参りますから、どうぞお目留められて御一覧を願います。」 爺さんはそう言いながら、側に置いてある箱から長い綱の大きな玉になったのを取り出しました。それから、その玉をほどくと、綱の一つの端を持って、そ・・・ 小山内薫 「梨の実」
・・・心慧思霊の非常の英物で、美術骨董にかけては先ず天才的の眼も手も有していた人であったが、或時金きんしょうから舟に乗り、江右に往く、道に毘陵を経て、唐太常に拝謁を請い、そして天下有名の彼の定鼎の一覧を需めた。丹泉の俗物でないことを知って交ってい・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・この雑誌の、八月上旬号、九月下旬号、十月下旬号の三冊を、私は編輯者から恵送せられたのであるが、一覧するに、この雑誌の読者は、すべてこれから「文学というもの」を試みたいと心うごき始めたばかりの人の様子なのである。そのような心の状態に在るとき、・・・ 太宰治 「困惑の弁」
・・・「普通の茶会だったら、これから炭手前の拝見とか、香合一覧の事などがあって、それから、御馳走が出て、酒が出て、それから、――」「酒も出るのですか。」松野君は、うれしそうな顔をした。「いや、それは時節柄、省略するだろうと思うけど、いまに・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・それからワイナハトマンが袋をかついで出て来ておどけて笑わせて、それで式が済みお客さんはみんな別室へはいって、ここへ陳列した子供への贈物を一覧するわけでした。なるほどこれは子供が喜ぶことだろうと思いました。式が済むと、室の外にいた貧民が一時に・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・見ると腹案の不充分であったためか、あるいは言い廻し方の不適当であったためか、そのままではほとんど紙上に載せて読者の一覧を煩わすに堪えぬくらい混雑している。そこでやむをえず全部を書き改める事にして、さて速記を前へ置いてやり出して見ると、至る処・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
明治五年申五月朔日、社友早矢仕氏とともに京都にいたり、名所旧跡はもとよりこれを訪うに暇あらず、博覧会の見物ももと余輩上京の趣意にあらず、まず府下の学校を一覧せんとて、知る人に案内を乞い、諸処の学校に行きしに、その待遇きわめ・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・ 前年外国よりある貴賓の来遊したるとき、東京の紳士と称する連中が頻りに周旋奔走して、礼遇至らざる所なきその饗応の一として、府下の芸妓を集め、大いに歌舞を催して一覧に供し、来賓も興に入りて満足したりとの事なりしが、実をいえばその芸妓なる者・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫