・・・あるときはちりぢりとなって、あるときは獄の内外に、あるときは一つ屋根の下に、それぞれの活動に応じ千変万化の必要な形をとりつつ階級の歴史とともにその幸福の可能性をも増大させつつ進んでゆく一貫性は、もはや単に希望されているところの理想に止っては・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・これまでいい意味での女らしさの範疇からもあふれていた、現実へのつよい倦むことない探求心、そのことから必然されて来る科学的な綜合的な事物の見かたと判断、生活に一定の方向を求めてゆく感情の思意ある一貫性などが、強靭な生活の腱とならなければ、とて・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・ こんにち、いくらかひろげられている発言の範囲で考えると、当時論じられた日本の転向の問題は論法のすべてを一貫して、観念的な傾きがつよく見られる。日本の治安維持法は、マルクシズムを放棄させ、運動から離脱することを要求したばかりでなく、更に・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ ここに集められているすべての文章は、一貫して一つの意志をもっている。それは、わたしたちの貴重な、そして誰にとってもかけがえのない一生を気分や現象で、はぐらかされ、かどわかされてしまわないようにという決心である。歴史の進みゆく本質と自分・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・そういう個々の具体的状態において、一貫性をもっているのである。 民主的な社会生活の確保ということがいわれ、文学の民主性ということが話されるとき、とかく、題材の方へばかり目がくばられる。あるいは、文学をとおして大衆との結合というふうに相対・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・境遇に向うその人の一貫した生活態度というものが在って、初めて互の友情の社会的なよりどころが与えられる。境遇が変っても、その変りかたに互の生活態度として納得の行くものがあり得ること、その境遇の変えかたに、相手の生活態度として評価し尊敬し得るも・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・ 如何なる事に於ても、其を一貫した「実」と云うものがなければ、其は、その形骸のみをそなえて最も尊い霊を失ったものである。 世の中のあらゆるものに「真」のないものは決して長生する事は出来ない。 聖ダンテの「神曲」は、何故今日まで不・・・ 宮本百合子 「大いなるもの」
・・・所謂ロシア気質というものは、イリフ、ペトロフ両人の極めてダイナミックな社会精神と感情の活動を一貫してどこにも古風なバラライカの響となってつたわってはいない。彼等は新しい人間たち、新しい文学のつくりてである。それにもかかわらず、「黄金の仔牛」・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・ 初めから声まで今日の客は、すべて一貫したリズムがあった。梶が出て行ってみると、そこに高田が立っていて、そしてその後に帝大の学帽を冠った青年が、これも高田と似た微笑を二つ重ねて立っていた。「どうぞ。」 とうとう門標が戻って来た。・・・ 横光利一 「微笑」
・・・形而上学でも倫理学でも宗教学でもすべて先生の独特な原理で一貫している。僕たちはその講義を聞いて来たのだ。よく解ったとはいえないけれども、よほど素晴らしいもののように思う。しかし自分たちが敬服したのは、その哲学よりも一層その人物に対してである・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫