・・・しかし「スタンダールやバルザックの文学は結局こしらえものであり、心境小説としての日本の私小説こそ純粋小説であり、詩と共に本格小説の上位に立つものである」という定説が権威を持っている文壇の偏見は私を毒し、それに、翻訳の文章を読んだだけでは日本・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ところが、メクラは本四国を上位においてそう云ったばかりに、開いた眼が又ふさがってしまった。そのメクラは女だったそうだが、非常に口惜しがってじだんだを踏んだそうである。その足のあとというのが岩に印されている。私もその足のあとだという岩の窪みを・・・ 黒島伝治 「海賊と遍路」
・・・作家を軍人、官吏、実業家の活動中心と結びついたものとして文化的にも上位にあるものとして考えているのである。何か役人風な見方がここには感じられる。 谷川氏の意見も穏当な態度で表現されてあるけれども、文化の上で従来の作家と大衆とが歩み寄ると・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・評論における「現実認識の直接性が、自己の生身の存在に対して上位にあるかの如き意識を絶えず感じさせられている。批評家は作家たちに対してのみならず自分自身に対しても照れ臭いのである」これもなかなか含蓄のある感情だと思う。この著者が、そのようにし・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・彼らのこしらえた自由出版協会に参加している戦犯的な出版社はむしろ用紙割当の上位をしめているありさまです。 文学作品との直接のつながりから見ますと、今年の一月ころから三月ころまでの間最初の四半期は、さっきちょっと触れたように、民主主義が初・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・妻の知識はいつも良人のそれよりは低いのが常態であり、常に、良人が上位から注ぐ思い遣り、労わり、一言に云えば人情に縋って生活する状態では、事実に於て、妻も良人も二人の人として肩を並べた心持は知り難いものではないかと危ぶまれます。 妻の要求・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・個性の最上位を信じながら社会的勢力との妥協を全然捨離し得ない苦悶。愛の心と個性を重んずる心との争い。個性と愛とを大きくするための主我欲との苦闘。主我欲を征服し得ないために日々に起こる醜い煩い。主我欲の根強い力と、それに身を委せようとする衝動・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫