・・・そうして、めんどうな積分的計算をわれわれの無意識の間に安々と仕上げて、音の成分を認識すると同時に、またそれを総合した和弦や不協和音を一つの全体として認識する。また目は、たとえば、リヒテンベルグの陽像と陰像とを一瞬時に識別する。これを客観的に・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・完全和絃ばかりから構成されたものは音楽とはなり得ないように絵画でも幾多の不協和音や雑音に相当する要素がなければ深い面白味は生じ得ないではあるまいか。特に南画においてそういう必要があるのではあるまいか。然るに近代の多数の南画家の展覧会などに出・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・またあまりに美しい完全な和弦が連行すると単調になり退屈になるので適当な不協和音を適当に插入することによって、曲の変化と活気が生じる。それと同様に、歌仙でもあまり美しい上品なそして句調の平滑な句が続くと、すぐだれて来て活気がなくなる。われわれ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・近代工業のおどろくべき進歩は、二十世紀に西洋音楽に深く影響して、オネガやストラヴィンスキーその他の音楽家たちが不協和音を摂取するようになったし、文学でも即物的な要素を加えられた。 そのような工場生活者の精神と肉体との組立てに対して、全く・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
出典:青空文庫