・・・それは世のジャーナリストたちに屡々好評を以て迎えられ、動きのないこと、その努力、それについては不感症では無かろうかと思われる程、盲目である。 重ねて言う。井伏さんは旅の名人である。目立たない旅をする。旅の服装も、お粗末である。 いつ・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・鼻がひくいと、貧乏にも卑屈にも、すべて不感症であるように、三吉には感じられるのだった。「でもな、おまえも二十四だ。山村の常雄さんだって、兵隊からもどると、すぐ嫁さんもろうた。太田の初つぁんなんか、もう二人も子がでけとる。――」 母親・・・ 徳永直 「白い道」
・・・彼等は、毎日毎日いつ尽きるとも知れない見物人と、飽々する説明の暗誦と、同じ変化ない宝物どもの行列とに食傷しきっているらしい。不感症にかかっているようだ。悠くり心静かに一枚の絵でも味おうと思えば、我々はこれ等の宝物に食われかけている不幸な人々・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
・・・寺田さんはこの色盲、この不感症を療治してくれる。この療治を受けたものにとっては、日常身辺の世界が全然新しい光をもって輝き出すであろう。 この寺田さんから次のような言葉を聞くと、まことにもっともに思われるのである。「西洋の学者の掘・・・ 和辻哲郎 「寺田寅彦」
出典:青空文庫